第三話 戦いと魔術
第三話です。相変わらず短いです。
とりあえず互いの名前を名乗り、街まで歩いていく。
「ここから街までどのくらい歩けば着く?」
歩き出して数分、ライラに聞いてみる。ライラの気配が感じられたということは、街の近くに行けばたくさんの気配を感じられるんだろうけど、今は特に何も感じない。近いとは言っていたけど、それなりに距離はありそうだ。
「だいたい二時間くらいですね。リョクさんに会うまでには薬草の採取をしていましたから、三時間くらいかかってますけど」
二時間くらいかぁ。ずっと動いていなかったから、近いのか遠いのかよくわからないな。
「あとこの辺には数は少ないけどモンスターが出ることもあるので注意が必要です」
……モンスターね。そうだな、ファンタジーの定番の一つだよな、モンスター。
「でもご安心を! わたしはこれでも水魔術を使えるEランク下位の冒険者ですから、この辺のモンスターの二、三体くらいどうにでもなります!」
なんかある意味不安になる言葉なんだけど……そう思いつつ気になったので聞いてみる。
「ランクってどんな感じになってるんだ?」
冒険者、ギルド、ランク。おそらく強くなればランクは上がっていくんだろうけど、Eランクのさらに下位というのがどのレベルなのかがわからない。
「えっとですね。高いほうからS、A、B、C、D、E、Fランクになっていまして、それぞれ上位、中位、下位とさらに三つに分かれています」
……下から二番目の下位ってことはそうとう弱いってことになるんだけど。この辺のモンスターがそんなに弱いってことなんだろうか。
「あ、疑ってますね? ランクが必ずしも強さに結びつくわけじゃないんですよ? それにこの辺のモンスターはウルフばかりですし、ウルフのランクはFランクの中位ですから、数が多くなければ大したことはないんです」
やっぱりこの辺のが弱いだけか。それにランクも結局よくわからないし、そのあたりは街に着いてからギルドで話を聞いてみるしかないか。しかし……
「ウルフっていうのは群れるモンスターじゃないのか?」
という印象がある。狼だよな? あ、でも一匹狼という言葉もあるか。
「確かに群れる習性のあるモンスターではあるんですけど、もともとの数が少ないみたいで、二、三体で現れることが多いです。一体の時も結構ありますし」
わたしは三体までなら一人で撃退したことがありますっ! と力強く語られる。
そこまで言うのであれば問題もないのかな。俺はおそらく戦えないし。魔術はもしかしたら使えるかもしれないけど……
「そもそも出会うとも限りませんしね。わたしはリョクさんと出会うまで今日はモンスターは見ていませんし」
ま、そうだよな。出会わないならそれに越したこともないし。
そんな感じで他愛のない話をしつつ街へと歩き、一時間と少し。俺は気配を感じた。
「ライラ、ストップだ」
「はい? どうしたんですか?」
ライラは気づいていないか。やっぱり気配に敏感になってるのか。いやそんな場合じゃないな。
「ライラは三体までなら撃退したことがあるって言ったよな」
「はい、言いましたけど……」
まだ疑っているんですか? と言わんばかりの目で見られるがそうじゃない。
「違う。ここから少し歩いたところに人間ではなさそうな気配を感じるんだ」
さらに言えば精霊でもない。となれば……
「っ、モンスターですか?」
「おそらく。さらに言えば……六体は、いる」
「え……?」
だからまずい。俺が戦えればやりようはあるんだろうけど、博打をするわけにも……だけどこれは……。
「に、逃げましょう。街へは迂回して向かえばいいんですし! ちょっと時間はかかっちゃいますけど!」
そう思うだろう。だが。
「無理だ。おそらく相手はこっちに気づいてる。少しづつ距離を詰めてきてる」
「そ、そんな……」
さっきまでの自信はもはやどこに行ったかわからないくらいに、焦燥感のある表情をしているライラ。なんとか守りたいところだが、厳しい。
逃げる方法を考える。しかし思いつかない。考えている時間もない。どうしたらいいのか考えていると、ライラが小さく言った。
「ここで、迎え撃ちましょう。大丈夫です! わたし、強いですから!」
震える声で言った。そして相手が見えた。見えてしまった。
「それしか、なさそうだな」
やはり六体。そして瞬間とびかかってくる!
「【アクアバレット】!」
「キャイン!?」
だけどライラは思ったよりも冷静なようで、一体を水魔術で倒す。一撃か。魔術ってすごいな。
「もう一回【アクアバレット】! あっ!」
もう一撃。これは避けられる。まずい!
「ライラ!」
避けたウルフともう一体がライラへと飛びかかるのが見えた瞬間、俺はライラを突き飛ばした。
「うぐっ!?」
「リョクさん!」
一体は問題なかった。もう一体には右腕に噛みつかれた。痛い。痛いが……
「今までに比べれば何の問題もないっ!」
左手を右腕に噛みついているウルフに向ける。
「ギャン!?」
そして首を落とす! よし使えたぞ魔術!
なんとなく、使える気がした。そして問題なく使えた。
「ライラ! こっちはこっちで何とかする。そっちは頼む!」
「わ、わかりました!」
これならいける。使えた瞬間に確信した。俺の周囲に魔力が渦巻いているのを感じる。ウルフは明らかにビビっている。
「【アクアバレット】!」
動きの鈍くなっている一体にライラの魔術が炸裂し、撃破。あと三体!
「って、あれ?」
「に、逃げていきますね。助かりましたぁ……」
半分になったウルフたちは一目散に逃げて行った。勝てないのを確信したのだろうか。
「あぁ、助かったな。っつ……」
と、安心したら噛みつかれた右腕の痛みを思い出した。血もまだ出てるし、結構ひどいなこれ。
「あっ! 今治しますね! 【キュア】」
「おぉー……」
痛みが引いていく。なんか気持ちいなこれ。
「どうですか。これが水魔術の力です! 本来はこの術は光属性の術なんですけど、水属性でも使えるすぐれた回復魔術です!」
なんかライラの調子もウルフが来る前に戻ったようだ。怪我こそしたけど治るし、今回はなんとかなってよかった。
「ありがとう。だいぶ楽になった」
「よかったです。攻撃魔術は一つしか使えませんけど、回復は得意ですから!」
そうは言うがあの水魔術でウルフ一撃だったよな? いや、俺の術でも一撃だったから基準がわからないが。
「そういえばリョクさんも魔術が使えたんですね! もしかしたらそれが渡り人としての力の一端かもしれませんね!」
「そうだな。俺もそう思うよ。何の違和感もなく使えたし」
そうこう話しているうちに右腕も完全に回復したみたいだ。腕を軽く振りながら確認するが痛みは全くないし、動きも問題なし。すごいな魔術。
「それじゃほかのモンスターが来ないとも限らないし、さっさと街に向かおうか。もう近いんだろ?」
「そうですね。それじゃ改めて出発です!」
そして俺たちはまた歩き出した。
というわけで今回は初戦闘でした。そして名前こそないが主人公初魔術でした。