第二話 精霊たちと少女との出会い
第二話。異世界到着。
夢を見ている。いつものように、森の中で……森の……
「夢じゃないよなぁ」
森の中にいた。
白い世界で神様と話して、別世界に行くことになって、そこで眠って。
「起きたら森。後ろには木々、目の前には湖」
そして周りにはおそらく精霊と思われる子供たちが見える。楽しそうに俺の周りを駆けていたり、ふわふわ浮かんでいたり、しゃべりかけたりしている。
――いっしょあそぼーよー――、――おひるねー――、――わーいわーい――
声は頭に響くような感じで実際に耳で聞いているわけではなさそうだ。それに精霊には実体はないのか、触れることはできなかった。でも無邪気なこの子たちを見てるとすごく和む。それにすごく元気になれる気がする。
「なんか不思議な感じだな」
入院中と違い、身体が動く。筋力は衰えていて歩くことすらできない状況だったはずなのに、平然と歩き回ることができる。
「これもこの子たちの力、なのかな?」
――そーだよー――、――ぼくたちすごいー?――
「あぁすごいよ。ありがとう」
――えへへー――
思わず手を伸ばし頭を撫でてしまった。
「って、あれ?」
撫でることができた。さっきは触れなかったんだけどな。意識すれば触ることができる……というよりも、この子が心を許してくれたのかな。
――あー! ずるいー!――、――ぼくもぼくも!――
などと考えているとほかの子たちも撫でてほしそうに近寄ってくる。
「あははっ」
楽しい。うれしい。一人じゃない。
笑ってしまう。今まででは考えられないこの状況。今後どうするかを考えなくちゃもいけないのに、今はこの子たちと戯れているだけで満たされるような感じがする。
その後しばらくはこの子たちと遊んで過ごしていた。
しっかりと遊んだ後は、大きな木に寄りかかり休憩していた。
「久しぶりに身体が動くものだから張り切りすぎた……」
精霊に疲れはないのか未だに遊ぼう遊ぼうと言っているが頭を撫でたりして、宥めていた。
「ん?」
そんなことをしているうちにこの子たちとは違う、別の気配を感じた気がした。
――にんげんだー――、――にんげんがこっちくるー――、――わーにげろー――
「ちょっ、みんな!?」
その気配を感じたと思った瞬間、精霊たちは散り散りに逃げてしまった。
「えぇー……」
人間が来るって言ってたよな? 精霊たちにとって、人間は恐怖の存在かなにかなんだろうか? やっぱり俺が特殊なだけか。
「とりあえず俺は行くところもないわけだし、ここで待機しているしかないか」
気配はだんだんと近づいてくる。スピードからして歩いている。数は一人。危険かどうかはわからない。
「見えた」
結構距離は離れているけど見える。視力もだいぶ上がってるんだな。精霊が言っていたように相手は人間。見た様子だと女の子、俺より少し年下かな?
「あ、あっちも気づいた」
木に寄りかかって座っている俺を見て不思議そうな顔をしている。それでもこっちには近づいてくるようだ。見た感じ危険はなさそうだけど……まぁなるようにしかならないよな。
「こんにちは。こんなところに何用だい?」
少女がこっちに来たために俺は声をかける。いきなり話しかけれたから少女すこし驚いたようだったが、普通に返事をしてくる。
「わたしは薬草の採取の依頼を受けて、終わったのでその帰りですけど……貴方はこんなところで何をしているんですか?」
……依頼、薬草。ファンタジーの定番のギルドの依頼ということかな。まぁそれは後回しだ。
「俺は何かの目的でここに来たわけじゃない。気が付いたらそこの湖のところにいただけだからさ」
少女の問いに対してはこんな答えしかない。ここがどこだかはわからないし、どういう世界かもよくわからない。もしギルドとかが街などに存在しているのであれば俺もなんとかして働かないと。
……正直、ずっと精霊たちと過ごしていたくもあったけど。人間が来ただけで逃げてしまうくらいだから、それも難しいだろうし。生活するにはお金は必要だろうし、な。俺だって人間なんだから。
「いつの間にか、ですか。もしかして渡り人さんですか?」
「渡り人?」
いきなりわからない単語が出てきたので、すぐに聞き返してしまった。
「あ、わからないですよね。えっとですね、渡り人というのはですね……」
渡り人。
この世界とはまったく異なる次元の世界から現れる存在とそう言うらしい。所謂異世界人。
基本的には超高位の魔術師などに召喚された存在が渡り人ということらしいが、まれにいつの間にか世界を渡ってしまう存在がいるとか。
「俺は誰かに召喚されたわけではなく、原因は不明だけど世界を渡ってしまったと?」
原因はまぁ、わかってはいるんだけどね。神様によるものだったし。
「はい。ですけど心配はいりませんよっ!」
「おわっ!」
急に大きな声を出すからびっくりした。それにそんなに心配はしてない……いやとりあえず話を聞こう。
「す、すいません。驚かせてしまいましたね……あのですね、そういった渡り人は国に保障が貰えるんです」
「保障?」
「はい。何も持たずに異世界から来てしまったわけですから、ある程度生活できるように国が力を貸してくれるんです」
それに、と続ける。
「渡り人には一般の人にはない力が存在しています。なのでそれを守るための保障でもあります」
「力……」
「まだ自覚はないかもしれませんけど、渡り人には必ず大きな力が存在します。そのうち目覚めると思いますよ!」
ちょっと興奮気味に話してくれる。確かに渡り人自体結構珍しいそうだし、そんな人と話すとなれば興奮してしまうかもしれない。自分がそうだとはあまり思えないんだけど。力自体には心当たりはあるけどさ。
「なので、街に向かいませんか? この近くにも街がありますから」
そんな少女の言葉に俺は頷き、立ち上がる。
とりあえずこの世界で生きていくためにまずは街へ向かうとしよう。詳しい話はまず、それからだ。
今までと違う世界に俺は少なからず興奮しているようだった。
「そういえばまだ名乗っていませんでした! わたしはライラ=トニックです。よろしくお願いします!」
「そうだった、忘れてたな。俺は緑。八雲 緑。こっちだと名前が先に来るのかな? その場合はリョク ヤクモだ。よろしくな」
第二話でした。
なかなか話は進みませんね……