第二十一話 パーティ
「おう、入ってくれ」
「失礼します」
軽くノックし、ファングさんの部屋に入る。ファングさんは疲れているようだ。この異常事態なら仕方ないことか……
「今日はどうした? 何か進展でもあったか?」
「そんな早くにわかるわけだろ? それよりもファングさんよ、受付のガイとかいうやつはどうにかなんねぇのか?」
「どういうことだ?」
先ほどのことを簡単に説明する。そうするとファングさんは呆れた表情になった。
「あー……すまねぇな。あいつは基本的な仕事はそつなくこなすんだが、自分で必要ないと感じたことはやりたがらねぇ奴でな。決して悪い奴ではねぇし、腕も立つ元冒険者でもあるんだが……」
なんでももとはCランクの上位まで行った冒険者だったらしい。だけど足に大怪我を負い、引退したんだけど、もともと優秀な冒険者だったわけだからその知識を生かしてもらおうとギルドで雇ったとのこと。
「だけどあんなんじゃ他の冒険者から文句もあるんじゃないのかよ」
「そうだな。冒険者をやっている頃はあんなんじゃなかったんだが……とにかく、ガイのことはこちらからどうにかしておく。それよりも要件を話してくれ。二人には悪いが、こちらもあまり時間が取れないんでな」
異常事態だし、ギルドマスターが暇なわけないもんな。
「俺たちはまだこっちの世界に来たばかりで、ギルドのランクは最低ランクです。この事態で依頼が受けられないので、どうにかならないかと思いまして」
「受けらんねぇなら、こっちは勝手に魔物を狩りに行くつもりだけどな」
「あぁ……そうだな。そのあたりのことを伝えていなかったな。リョク。お前はライラの嬢ちゃんたちと仲がよかっただろう? 複数人であれば依頼は受けられる。それじゃダメなのか?」
やっぱりそこに行きつくよなぁ。俺もそう思っていたわけだし。
「それに関しちゃ、俺が断ったんだよ。ランクが俺たちより高いとはいえ、実力が上とは思えねぇ。女子供じゃ足手まといなんだよ」
俺が答える前に光太郎が答えてしまった。俺に関して言ったことと同じだけど、どうしてこうも、頑なになるのか。いつか聞ければいいな……
「おいおい。三人ともタイプは違うが、足手まといってことはないだろう。クリスは安定した戦いを見せるし、ライラは魔術でのカバー、回復もこなせる。ノエルは遠距離攻撃が可能だな。一対一で戦えばお前たちのほうが強いのかもしれないが、パーティでの戦いでは優秀だぞ、彼女たちは」
「だったらなおさらだろうが。俺なんて異物が入ってそのパーティの良さが生かせんのかよ?」
「はぁ……そこまで嫌なのか? まぁそれならばいい。お前らは二人で依頼を受けようとしてるんだよな? 悪いがそれはこちらが許可できない。実力があってもこちらの世界のことを知らない二人だけなんてのはな」
光太郎には悪いけど、これには同感だ。魔物を倒す力があっても、そもそも剥ぎ取りすらできないし、初見の魔物がいた場合に何も知らないと危険すぎる。
「だったらどうするってんだよ」
「その前に一つ確認だ。お前たち二人をそれぞれ別のパーティと一時的に組ませようと思うが……それでもいいか? リョクはクリスのパーティ。コウタロウはまた別の、男だけのパーティだ」
いや、俺はいいかもしれないけど、光太郎は……
「なんでわざわざそんなことすんだよ? 俺たち二人だけで心配だって言うなら、誰か一緒に連れてきゃいいだけじゃねぇか。わざわざわける意味はあんのか?」
「もちろんある。まず一つはお前たちにパーティを組む意味を知ってもらうこと。あとはお前たちの実力を見込んでのことだな。今回のこの事態、強い魔物は今のところ出ていないが……何かあってからでは遅いんでな。せめて他のパーティの生存力を高めておきたい」
さらに言えば、渡り人同士だけで完結せずに、現地の人たちとの関わりを深めてほしいとファングさんは続けた。それをいうのであれば、俺はライラたちとは別のパーティと組んだ方がいいってことになりそうなんだけど……なんでも光太郎がまともに話す人が現時点で俺とファングさんの二人しかいないという状況がよくないとのこと。
確かにこっちで生活するうえで、こっちの人たちとの関わりは同然必要になってくるもんな……
「わかった、わかったよ……だったらそのパーティを呼んできてくれ。俺は了承だってな。俺たちに言う前にそいつらに話はしてあんだろ? どうせよ。だけど、そりが合わなかったりしたらすぐにやめるからな」
「おう、すまんな。もちろん相性がよくないのに今後も組ませたりはしない。あぁ、リョクは先に行っていてくれ、この時間であれば依頼を受けようとクリスたちもいるはずだからな。依頼を受けるでも、話をして考えるでもかまわん。三人にはこういったことになる可能性は話してあるからな」
「わかりました。それじゃ光太郎、また」
「おう、怪我すんなよ?」
「そっちもね? あと喧嘩しないようにね」
「それは他のメンバー次第だ」
光太郎の言葉に思わず苦笑しつつ、ファングさんの部屋から出る。光太郎は大丈夫だろうか? 年下の俺が心配するのも違うかもしれないけど、結構心配だな。その考えにも苦笑してしまう。
「お、来たね」
「……待ってた」
「リョクさん、こんにちは!」
出て受付のところまで戻ってくると三人がこちらに気が付いて挨拶してくる。待ってたのかな?
「三人ともこんにちは。待ってたの?」
「はい。ファングさんからもしかしたらパーティを組んでもらうかもしれないという話を受けたので」
「ちなみにもちろん了承したよ? 渡り人の戦いぶりは気になるし、リョクとは一緒に依頼を受ける約束してたじゃん?」
「……準備はちゃんとしてる?」
それぞれの言葉。正直、やっぱり嬉しく思うな。こっちに来てからまだ日が浅いけど、誰かと話すっていうのはいいな。
「ポーチにこないだ買ったものはちゃんと入れてきているよ。今回はどの依頼を受けるの?」
「……ならよし」
「どの依頼って言ってもねー。今はこの異常事態に関するものばかりだよ? ま、魔物が多いから数を減らすのがメインだけどね。調査の依頼もあるけど、正直何をすれば調査になるのかがわかんないから少しでも魔物の数を減らすってことになるね」
たしかに、調査って言っても何をすればいいのかわかんないな。エルは影の魔物だって言っていたけど、それを俺が言ってもなんで知ってるんだって話になっちゃうし……いざとなったら言うしかないんだろうけど。
「今回は魔術を使える私とリョクさんがいるので、スライムの討伐を行う予定なんです」
「スライム?」
魔術を使える俺たち……ということは物理には強いってこと? とすればクリスとノエルちゃんはどうするつもりなんだろうか?
「そう。ゴブリンなんかは接近戦が得意な人たちが狩るだろうし、ウルフはねー。正直速さがあるウルフだと戦闘経験の少ないリョクだとちょっと心配でね?」
「……ちなみに、ボクもクリスもスライムに対する術は持っているから心配無用」
「スライムは打撃や斬撃に強いんですけど、魔術には弱いんです。特に属性も考える必要すらないくらいなので、私も倒せますし、リョクさんも問題ないはずなので」
「なるほど……場所はどこになるの?」
未だにエルたち精霊がいる森とゴブリンと戦った平原しか行ってないからぜんぜんわからない。
「私がリョクさんと出会った森のちょっとはずれのところです。湖が近い場所なんですけど、ここでスライムが大量発生しているという情報がありました」
「ま、他にも依頼を受けているパーティはいるだろうけど、相手はそれだけ多いからね」
「うん、わかった。それじゃさっそく行く?」
特に持っていくものはないよね? ポーチにアイテムは入ってるし……
「ちょいまち。リョクさんちゃんと食料品持ってる? 持ってないなら買っていくよ? 長居するつもりはないけど、何があるかわかんないんだからさ」
「あ、そっか」
考えてなかった……自分はなぜか食べなくても平気だからな……普通は必要だもんな。ちゃんと買っていかないと。
「……それじゃ、お店に寄ってから行こう」
「おっし、あたしたちの戦いぶりをリョクに見せてあげよう!」
「うん、楽しみにしてる」
なんか、緊張感があんまりないけど、いいのかなぁ……




