第十八話 佐山 光太郎
久しぶりにこっちを更新
「なんか不機嫌そうだったけど大丈夫か?」
「あー……」
ファングさんの部屋に向かう際に気になったことを光太郎に聞いてみる。俺に対してはかなりフランクに話かけてきてたりしてたのに、さっきまでは全然しゃべろうとしなかったし。
「ちょっとここに来るまでにいろいろあってなー。ファングさんとの話が終わったら話すぜ」
「別に話しづらいことだったら無理に話さなくてもいいんだけど」
同郷出身だとしても言いたくない事なんていくらでもあるだろうし、別に言いたくないわけじゃないけど、秘密にしてることは俺にもあるしな。
「いーんだよ、別に大したことじゃねぇしな。それより着いたぜ? さっさと話を終わらせようぜ」
「……わかったよ。さて、失礼します」
とりあえず光太郎との話は一回終ろう。今は今回の異常事態についてだ。それをファングさんと話に来たわけだしな。
「おぅ、来たな。お前たちも会ったんだよな、大量発生」
「えぇ。ゴブリンはランクが低いから最初のうちはいいかなって思ったら大量に現れました。俺一人だったら逃げることもできなかったかもしれません」
「けっ、あんな雑魚どもだったら緑一人でも楽勝だったろ? とりあえず斬りかかっておきゃ死ぬ奴らなんだからよ」
いやいやいや、魔術使ってもそんな簡単に倒せるわけじゃなかったぞ? 接近戦はできないし、ちゃんとした魔術はまだ使えないから今だとやばい。
「駆け出しでゴブリンを楽勝と言える奴はそうそういねぇよ。装備も基本的なものしかなかったのによく平気だったもんだ」
「光太郎は剣振ってゴブリン吹き飛ばしてましたけど……」
「緑は魔術で吹っ飛ばしてたよなー? しかも最後の爆発は派手ですげぇ威力だったし」
最後のは確かにすごい威力だったと思うけど、ちゃんとした魔術ならもっと威力が上がると思うんだよなぁ。やっぱり教えてもらわないと。自力で名前を付けてみてもいいのなんだろうか?
「……要するにお前ら二人とも出鱈目ってことだな。渡り人ってのは本当に……」
ファングさんは疲れたように息をついた。うーん、やっぱり普通のことじゃないんだろうなぁ。
「まぁいい。それで聞きたいんだがゴブリンはどの程度の数居やがった?」
「百はくだらないかと。というか……」
「数なんかわかるかよ。倒しても倒しても減らねぇんだ。どっからか湧いてんじゃねぇの?」
光太郎は結構冷静に見てたみたいだな。倒しても倒しても周りからゴブリンが襲ってくる状態だったもんなぁ。確かに数なんか把握できないな。
「ふむ……で、逃げるときはどうだった? 追ってきたか?」
「いえ、追ってきませんでした」
「縄張りからはでねぇ魔物だったんかね? あれほどこっちに攻撃しかけてきたくせに、逃げる時にゃ呆気なかったよな」
助かったけど、確かに不思議だ。なんかあの辺りから出られない理由でもあるんだろうか?
「そのあたりはクリスたちの報告と一緒か。ウルフたちも逃げる三人を追ってはこなかったらしいからな」
ほかにもファングさんが報告を受けた限り、逃げるものを追う魔物をはいなかったとのこと。
「情報提供感謝する。ギルドのほうで調査団を出すからあまり街から出ないようにな。とはいえ大量発生の魔物が攻めてこないとも限らん。数が減るかどうかまだわからんが、退治しに行くというのなら依頼を受けて行ってくれれば止めんから無茶しない程度にやってくれ」
「わかりました」
「任せてくれ! 俺と緑ならその辺の魔物、楽勝だからな!」
まだゴブリンとしか戦ってないだろうに、その自信はいったいどこからくるんだ……話は終わりということでファングさんの部屋を後にする。
「この後はどうする?」
「あん? 言ったじゃねぇか。俺のことを話すってよ。どっか落ち着いて話せる場所ないか?」
あぁそういえば言ってたな。俺は別に気にしなくてもよかったんだが……
「だったら俺が泊まってる宿の部屋にでも行くか?」
「おっしゃ、それでいいぜ」
俺たちは宿へ向かい、そのまま自分の部屋へ行く。そこで光太郎の話を聞く。
「緑がどうだったかは知らねぇけどよ。俺は死にかけててよ、なんか声が聞こえてきたと思ったらこっちの世界にいたんだ。ファングさんに会うまではわけわかんねぇし、イラつくし、困ったもんだったぜ」
死にかけて、か。神様の話によれば俺も死んではいないらしいし、光太郎もそうなのか? 自覚がないだけって可能性もあるけど……
「んで、あの女の子たちといるときに不機嫌だった理由なんだがな……ま、単純に俺は女が苦手だってだけさ」
苦手……そう話している光太郎の表情はとても苦々しいものだった。
「苦手ってだけで、あの子たちはまったく悪くねぇ。だけどどうも女ってだけで身構えちまうんだよ」
光太郎の話は続く。
「昔は別に平気だったんだがな……自分で言うのもあれだが、俺は結構モテた。付き合った女の数もそれなりだ。だが……」
一息を入れる。やっぱり話しづらいんだろうか、だったら話さなくていい、そう言おうと思ったけど、光太郎は話を続ける。
「みんな、死んだ。全員自殺だ。俺と関わった女は自殺する。そう考えると女と話すことすら苦痛に感じるんだよ。また俺のせいで死んでしまうんじゃねぇかってな。ちなみに俺があっちで死にかけていたのもこれが関係しててな。何人も自殺してりゃ、当然俺が怪しいって話になる。だけど別にこれといった証拠もねぇし、女たちの親だったり友人だったりは泣き寝入りするしかなかった。それに納得しねぇ奴らが集まって行動を起こしたのさ」
……俺は死ぬのを待つ人生だったけど、家族がいた。味方がいた。でも光太郎には敵しかいなかったんだろうか。
「で、熱くなった奴がナイフを持っていて、それが俺の胸に突き刺さったのさ。ま、事故みたいなもんだ。あいつらだって俺を殺そうと思ってたわけじゃねぇだろうし、俺は仕方ねぇと受け入れた。だが、そんな最中声が聞こえた。『呪いを受け入れるか面白い。だったらそれは俺が貰い受ける。あとは楽しめ!』ってな。そんでこの世界さ」
ここで光太郎の話は終わる。あとはファングさんと出会って、俺と出会って、今に至るわけか。
「おそらくその声の主が俺に加護を与えた片割れじゃねぇかとは思うが、まぁわかんねぇから気にしても仕方ねぇよな」
「そうだな……ありがとうな、こんな話をしてくれて」
「別にいいんだよ。俺にとっちゃまともに話せる奴がいてくれて助かってるくらいなんだからよ」
女性は論外。それ以外に話をするって言っても今のところファングさんくらいしかいないんだろう。だったら俺が話を聞くくらい全然問題ないよな
「さって、話したら疲れちまった。明日からはまた魔物を狩りに行ったりすんだろ? 俺は先に休ませてもらうぜ」
「あぁ、お休み」
「んじゃなー」
そう言って光太郎は出て行った。呪い、か……俺のこれもあっちでは呪いのようなものだったが……渡り人にはそういうつながりでもあるんだろうか?
考えてもわからない。まだ日は落ちてないけど、俺も今日は休もう。いろいろあって疲れたしな……
「シディア、お休み」
『お休みなさい主様!』
明日からはどうしたものか。まずはエルに会いに行こう。森の状態も心配だから……
もう光太郎のほうが主人公なんじゃなかろうか……




