第一話 世界間の移動
第一話です。
主人公の転生までの話。
眠りについて、夢を見る。そう思っていたのだけど……
「ここはどこだろう?」
俺は真っ白い世界にいた。いつもの夢なら森の中のはずなのに、この白い世界にはなにもない。
「地面すらないのに、立っている感覚がある」
もしかしたらここが死後の世界というやつだろうか。ここで成仏するまで待機とか? だとすれば勘弁願いたい。いったい何をしていればいいというのか。
「む。やっと来たのか」
と、唐突に後ろから声がした。
「思いのほか、長く生きたものじゃな。関心するぞ若人」
後ろを振り向いてみればやたらと姿勢のいいおじいさんがいた。
「えっと……貴方は誰で、ここはどこなのでしょうか?」
わからない事だらけ。周りを見てみてもこのおじいさん以外誰もいない。なので、簡潔に質問してみた。
「ふむ。すまんがワシには名乗る名はない。だがお主ら人間にとっては‘神’のようなものじゃよ」
「はぁ……」
そして目の前の神様?は続ける。
「そしてここは‘狭間の世界’じゃよ。死んだ者が‘次’へ向かう前に一時的に居るためだけの場所じゃ」
「……」
もう意味が分からない。
「とりあえず俺が死んだということは理解しているのですが、ここでいったい何をすればいいのでしょうか? それと神様が一人の人間の前に現れるのは普通のことなんでしょうか?」
あと、次という意味が分からない。輪廻転生ってことだろうか。
「ここですることは特にない。あえて言うならワシと話をするだけじゃな。ワシのような神が一人に人間に現れることは多くはない、じゃが特別な才ある者や、特別な処置が必要な場合にはたびたび現れる。お主は前者じゃな」
「……俺に特別な才能があると?」
「そうじゃ。そしてその才こそが、お主の‘病’の原因とも言える存在じゃ」
……才能が病の原因? それって才能っていうのだろうか? むしろ呪いっていうべきなんじゃないだろうか。
「死んでしまったお主からすれば呪いかもしれん。お主には精霊に好かれる才能がある」
「精霊、ですか?」
ファンタジー的な精霊だろうか。自然などに宿っている……
「そうじゃ。しかしお主の世界の精霊は滅亡の危機に瀕しておる。心当たりはあるかの?」
「地球温暖化……自然破壊……」
自然関係でいうならばこのあたりだろうか。だけど、自然はまだ地球にはしっかり残っているし、滅亡というのは大袈裟じゃないだろうか。
「それも原因の一つ。さらに言うならば信仰心の低下じゃな。神、天使、精霊。こういった存在を信じる者が少なくなっているがために、それらの力が減少している。そして力の弱いものから滅亡しつつある」
「それと俺の病に何の関わりが?」
精霊に好かれていて、なんで死ぬことになるんだろうか。嫌われていて呪われるとかならわかるけど。
「……言い方が悪かったの。お主の才は精霊に好かれることじゃが、それはもはや精霊にとって己の一部であり、お主の一部が精霊であるとも言えることなのじゃ。お主の才は人間を超越するものなのじゃよ」
「はい?」
いきなり人間を超越すると言われましても……
「俺の病は精霊が死の淵にいたから、俺もその影響をもろに受けて今に至ると?」
「……その通りじゃ。ワシにもお主がなぜそこまで精霊に好かれているのかはわからん。しかしお主をこのまま死なすわけにはいかない事情がある」
「事情ですか?」
と言われてももう死んでしまっているんですけど。
「そうじゃ。まさにその事情こそその才じゃが……お主が死んで、いなくなってしまうと数多くの精霊に影響が出てしまう。悪いほうにな」
じゃから、と続ける神様。
「お主を別の世界へと飛ばす。そのためにワシはここに来た」
「えっと……転生ということですか?」
なんか頭がだんだんこんがらがってきたんだが……
「転生ではない。輪廻転生の輪に入れてしまった場合、その才は失われてしまうのでな。お主をそのまま別世界へと飛ばす」
ということはもっと生きていることができるということか。とはいえ、別に生きることに未練なんてあんまりないんだけど。選択肢なんて無さそうだし……
「無論こちらからお願いする立場じゃ。お主が願うことを一つだけじゃが叶えてやる。言ってみるがいい」
願いと言ってもな……あぁそうだ。
「家族が幸せになれるようにお願いします」
これ以外にはないな。俺が入院している間も甲斐甲斐しく世話をしてくれた家族。この人たちだけには不幸になってほしくない。
「……いいのか? 願いは一つだけじゃぞ」
「えぇ。これ以外にはありません。お願いします」
家族が少しでも幸せに生きられるように。そう願いつつ頭を下げる。
「承った。とはいえワシにできることは多くはないがの」
これでいい。これで完全に未練はない。
「それで俺はどんな世界へ?」
おそらく神が信仰されていたり、魔法があったり、ファンタジーな世界になるかな。そうじゃないと精霊が弱っちゃうわけだし。
「お主が考えているような世界でほぼ間違いはないじゃろうな。あとは行ってみて確かめてもらうしかない。お主の才があれば、魔法は間違いなく使えるし、そうそう死んでしまうこともないじゃろうしな」
「わかりました。とりあえず、頑張って生きることにしますよ。死んでしまうと困ってしまうようですし」
「頼むぞ。では次に目が覚めた時には別世界じゃ」
神様がそういうと俺はだんだん眠くなってきた。なんか、最後の時に似ている眠りだけど、死への眠りじゃない事だけはわかった。
次は頑張って生きないと、な……
そして俺は眠りについた。
「行ったか……」
そこには一人の老人のみが残されていた。
「まったく、欲のない人間じゃったな。ああいう人間じゃから精霊に好かれ愛されるのかの? しかし、あそこまで精霊と一体化してしまう人間とは」
老人は考えていた。しかし答えは出ない。
あの才はまさしく‘神’の力。だが、一人の人間に肩入れする神などなかなかいないし、才を与え放置していくことなど考えられない。
「まぁよい。それよりもワシももう一仕事するとするかの」
そう言って老人は下を見る。
一人の少女が少年の亡骸に泣きついているのが見えた。
「幸せに、の。難しいことを願っていくものじゃ」
そう言う老人の顔には笑みが浮かんでいた
……いまだに主人公の名前が出ていない。
この話で出すつもりだったんだけどなぁ。