第十六話 シュヴァルツと二人目の渡り人
今回新キャラ登場
「おはよう坊や。今日は坊やにお客さんが来ているよ」
シディアを解放した翌日、朝食を食べようと思っていると女将さんに話しかけられた。
「おはようございます。俺に客ですか?」
朝から誰だろう? ライラ? いやライラだったら同じ宿だしわざわざ女将さんに言う必要もないか。ファングさん? んー、どうだろう。
「こないだ坊やに手紙を渡してくれって言った人だよ。外で待っていてくれているらしいから会いに行ってあげな」
あぁ! 神様の孫さんか。言いづらいな、名前聞いとかないと。
「わかりました。行ってみますね」
とりあえず朝食は後回し。一度部屋に戻り、書いてある手紙を持ってくる。
たしか全身黒づくめで一目見ればわかるということだったけど。
「なるほど……」
「おはようございます、緑さん。私のことは話さなくてもわかっておりますよね?」
そこにいたのはまさしく全身黒づくめ。シディアとはまた違った黒色だ。シディアは神秘的で綺麗な黒色だけど、こっちはすごく怪しく感じる。茜はよくこの人の話を信じたな……
「はい、おはようございます。妹がお世話になりました」
「いいんですよ。貴方の願いをどうしようかと思ったらそうなっただけというだけですから。手紙はもう書けていますか?」
「書けていますよ。これです」
持ってきた手紙を渡す。っと、そういえば名前を聞こうと思ったんだった。
「そういえば、俺はあなたのことはなんて呼んだらいいでしょうか? 名前を聞いてもいいですか?」
「名前ですか。申し訳ありませんが、私に名前などないんですよ。祖父にはシュヴァルツと呼ばれていますので、そちらで呼んでいただければ構いません」
それは名前ではないんだろうか?
「シュヴァルツさん、ですか」
「はい。ドイツ語で黒を意味する言葉です。全身黒色ですから、そう呼ばれるようになってまして」
なるほど、それはたしかに似合ってる気がする。
「ではシュヴァルツさん、ひとつ聞きたいんですけどいいですか?」
「はい、なんでしょうか?」
俺は気になっていたこと。写真を入れることはできないかどうか聞いてみた。
「できませんね。まずこちらにはそのような技術はありませんし、あちらの技術のものをこちらに持ってくることはできません。逆もそうですね。手紙のみで精一杯です」
ということだった。やっぱり無理か……言葉以外でも元気でやっているということがわかればな、と思ったんだけど。
「ということは、お土産みたいに何かを渡してもらうのも無理ですか」
「はい、無理ですね」
きっぱり言われてしまった。あちらの技術力。こちらの魔術的なもの。そういったものが行き来してしまうと、バランスが崩れてしまうことがあるとのこと。まぁ無理なものは仕方ない。手紙だけでもありがたいんだ、贅沢を言ってもな。
「わかりました、無理を言ってすいません。手紙お願いしますね」
「お任せください。少々日数はいただいてしまいますが、必ずお届けいたします」
そう言ってシュヴァルツさんは歩いて行ってしまった。
『主様。さっきの人誰なんですか? あの人、人間じゃないですよね?』
シュヴァルツさんが見えなくなったあと、シディアが話しかけてくる。まぁ人間じゃないんだろうな、きっと。
「あの人は、俺をこの世界に飛ばした人の孫だよ。なんでも世界間の移動ができる人なんだってさ」
『それってすごく出鱈目ですね。持ってる魔力はすごく綺麗だったのに、その存在は歪んで見えましたし……』
「そうなのか? 俺にはそこまで感じられなかったな」
怪しい感じしかしなかった。魔力はそもそも見えなかった。
『その存在感が隠してしまってるみたいでした。僕たち精霊でも感じ取れる精霊は多くはないかもしれません』
やっぱり出鱈目な人なんだな。ま、害がないならそれでとりあえずいいよ。茜が信じられるっていうならきっと大丈夫。
「まぁあの人のことを考えてても仕方ないし、朝食を食べてギルドに行こうか」
『はい! わかりました!』
うん。いい返事だな。やっぱり一人でいるよりも楽しくていい。
「おはようございますー。リョクさん、今時間はよろしいですかー?」
ギルドに来て、依頼をどうしようかと考えていると、エイミさんに話しかけられた。
「なんでしょうか? 時間は大丈夫ですけど」
「はいー。ファングさんがお呼びですので、部屋へどうぞー」
「え? あ、はい。わかりました」
突然に呼び出しってなんだろう? また知らないうちに何かやらかしたかな。それともエルやシディアのことがどこからか知られたとか? 本当に何だろう。心当たりがあると言えばあるし、ないと言えばない。
考えてもわからないので、ファングさんの部屋に向かう。そして軽く挨拶をして入るとそこにはファングさんともう一人、知らない人がいた。
「おう、来たな。まぁ座れ」
「はい、失礼します」
ファングさんの隣に座っているのは俺よりも年上か? 若干身長も高い。茶髪のショートカットだが……服装がジャージだ。まさか。
「見ただけで気づいたか? あぁ、こいつは昨日俺が拾った渡り人だ」
挨拶しろ、と隣を小突くファングさん。そしたらその人は立ち上がり……
「はいはい。 佐山 光太郎、二十六歳だ。 よろしくなー先輩!」
と、挨拶した。ちなみに年上でも敬語はいらんからそのつもりで、とも言われた。
「了解だよ光太郎。俺は八雲 緑。十九歳だ、よろしくな」
そのあと、先輩って呼ぶなよ? と言っておく。結構歳は離れてるけど、気軽に話せそうな人だ。
「んでさ、緑? 俺も適性チェックってやってみたんだけど、ほんとこれわけわかんねぇなー」
そう言って俺に紙を差し出してくる。適性か、どれどれ……
コウタロウ サヤマ 適性結果
火 76
水 05
風 04
地 64
光 31
闇 01
時 01
無 14
****と****の加護”
「……何この数値」
「これってすげぇの? ファングさんがすげぇって言ってたけど、わかんねーんだよな」
「……ちなみに俺はこんな感じな」
光太郎の数値を見て驚いたが、俺も紙を光太郎に見せる。俺みたいにほぼ全てに適性があるとかそういうわけじゃないが、二つほど、滅茶苦茶数字が大きい。
「おー、時以外の数値たけー。でも火と地は俺のほうがたけーな!」
光太郎は笑いながら声をあげている。ファングさんはやれやれだ、と首を振っている。
「というか、光太郎の加護も俺と同じでわからないんですね」
「あぁ。まだ数値が偏っている分リョクよりは推測が可能になりそうだが、今はなにもわからん」
火と地に偏った数値。しかも加護には“と”とある、二つの加護を持つということになるわけだ。
「それでファングさん。俺はなんで呼ばれたんですか?」
「あぁ。まずはとりあえずの挨拶だが、今後討伐の依頼を受ける際、こいつも連れて行って欲しいんだよ。いつも、ってことじゃないから安心しな」
なるほど、渡り人は渡り人同士で経験を積ませようってことかな? 俺としても同郷の存在と一緒にいるのは楽しそうだからいいけど、シディアと話せないのはちょっとストレスたまりそうだな……
「ま、そんなことだからよろしく頼むぜ! 先輩!」
「だから先輩はやめろって」
でもこの人も楽しい人だからいっか。宿にいればシディアとは話せるし、いつもっていうわけじゃないんだし。でも光太郎の装備とかはどうするんだろうか?
それを聞いてみると、とりあえずギルド持ちで簡単に装備を整えたらしい。渡り人に対しては当たり前のことだとか。あれ、俺って……まぁいいや、考えない考えない。
光太郎は片手剣にしたとのこと。なんでも喧嘩で木刀を使っていただからだとか……や、野蛮だなぁ。でもこっちじゃそのくらいのほうがいいのかな。
さて、とりあえず部屋から出てライラたちがいるようなら紹介しないとな。
というわけで二人目の渡り人が登場。主人公と比べれば明らかに接近戦向けですね。




