第十五話 精霊たちの邂逅と契約
今回は中位精霊二人の話になります。
次の日の朝、さっそく昨日買った装備を着て、エルに会いに森へと向かう。とはいえ初日にウルフと戦った以外にまだ戦闘なんてしていないんだけど。森に向かうだけならこの装備も必要ないかもしれないけど、初日のこともあるからなぁ。
結局魔物とは全く出会わずに聖域までたどり着く。精霊がいるから襲ってこないのかな。初日はライラがいたから、精霊は周りにいなかったし。
『あら、こんにちはマスター。今日はお客さんもいるのね?』
「あぁ、こんにちはエル。ちょっと相談したことがあってそれに関するお客さんというかね」
――あの、僕は闇の中位精霊です。名前持ちの精霊の方は初めて見ました。エルさんってすごいんですね!――
やっぱり名前があるっていうのは精霊の中では珍しいことなんだな。それだけで驚くとは。
『すごいのは私じゃなくてマスターよ。名付けて契約したけど、後遺症もなく元気なんだから』
――お兄さん、やっぱりすごい人だったんですね……僕を見つけただけでも驚きだったのに、契約なんて――
『マスターは何も知らなかったけどね。この人渡り人よ、気づいてた?』
――はい。お兄さんと一緒にいた人たちが言ってましたから。それでも契約なんて簡単にはできないと思うので、すごいなぁって――
『確かにすごいわね。魔力の量もおかしいし、そもそも精霊と仲良くなれる人間なんて出鱈目よね』
――あれ、お兄さんって人間だったんですか? 何か新種の種族かなって思ってたんですけど――
『それいいわね。種族としては何になるかしら。……思いつかないわね』
――これを考えることでお兄さんを正しく認識できることになるんですね! 一緒に考えましょう!――
『えぇそうしましょう。幸い時間はたっぷりあることだし』
……なぜこんな話になっているんだろう? 俺は確かに人間だよ? この二人はいったい何を言っているんだ。というかそんな話をしにここに来たわけじゃないんだよ!
「二人ともストップ! そんな話はどうでもいいから、俺の用事を……」
『どうでもよくはないでしょう。あなたのことよ? 大切なことじゃない』
――そうです。お兄さんを理解するために必要な話なんです――
「……そうか」
本当にどうしてこうなった。というか闇精霊の君、君のことで相談しに来たんだぞ? それなのに、なんで俺の話を続けているんだ。
諦めて二人の話が終わるのを精霊たちと戯れながら待つ。身体強化にも若干ながら慣れてきたので、この子たちがじゃれついてきても倒されることなんかはなくなった。
吹き飛ばされるのはお気に入りみたいなので、時々吹き飛ばしてみて遊んでいる。わーわーきゃーきゃー言っている精霊たちに癒される……
『うーん。この話はまた今度にしましょうか』
――そうですね。まだ決まりそうもありませんし――
どうやら話は一時中断となったらしい。もう人間じゃなくてもいいよ……はぁ。
『ところであなたたちは何しに来たの? だいたい見ただけでわかるけど』
まぁ黒いナイフを持ってきて、そこにいる精霊と話していたら、そりゃわかるよな。
「この子が閉じ込められているのを助けたいと思ってさ。エルの知恵を借りに来たんだ」
――お願いします! 僕も声だけじゃなくて誰かと触れ合いたいんです!――
『結構強力な封印をされているみたいだけど……特に悩まずに解決するわよ?』
「はっ?」
――え? か、解放できるんですか!?――
なんかすんなり言われてしまった。エルを頼ったのは正解と言えるんだろけど、本当にそんな簡単に解決する内容なのか?
『えぇ。マスター、あなたがこの子に名前を授ければいい。契約すればそれを害する封印の力も弱まるし、名前持ちになればその力で封印は破れると思うわよ?』
――えぇ!? 僕も名前をいただけるんですか!?――
え、そんなことで解放できるのか? というか最初契約してしまったときあんなに怒ったのに、いいのか?
『マスターも二回目になるし、理解していれば問題ないはずよ。あとはあなたが契約に同意するかどうか』
――も、もちろん同意しますよ! こんな光栄なことはありませんから!――
光栄? どこに光栄な要素があるのかがわからない。
『ならあとはマスターが名前を授けるだけね。用意はいいかしら?』
――お兄さん! お願いします――
「わ、わかったよ。ただちょっと考えるから待ってくれ」
なんか俺をおいて話が決まってしまっているような気がする。でも助けたいと思ったから今ここにいるわけだし、考えよう。
エルの時には髪と瞳が綺麗なエメラルドグリーンだったからそこからとったんだよな。今回は姿を見られたわけじゃないから……
黒いナイフ。闇属性……綺麗な黒色。黒曜石……
「よし、シディアというのはどうだろう」
そういった瞬間、俺の中から魔力が抜けていくのがわかる。覚悟していたとはいえ、結構きついものがあるな……でも、これで助けられるなら安いもんだろう。闇属性の魔力もわかったから、今後使えるかもしれないし。
――シディア。僕の、僕だけの名前! ありがとうございます!――
シディアもその名前を認めてくれる。よかった、気に入ってくれたようだ。
そして、ナイフのほうから確かな力を感じる。これがシディアの力か。
『すごい力ね。私よりも上、というかもはやこれは上位精霊レベルね』
ナイフが軋んでいる。いや、ひびが入っていくのがわかる。そして数秒の時をおいて、ナイフは砕け散った。
『出れました! 主様! エルさん! ありがとうございます』
エルと同じように、しっかりと声が聞こえるようになったし姿も見える。
その姿は子どもの姿。真っ黒い髪、真っ黒い瞳。日本人よりも深い黒い色を持つ男の子だった。
「ってか、シディアは主様って呼ぶのか」
名前で呼んでくれていいんだけど、エルにしてもシディアにしてもなんでそういう風に呼ぶんだろうか。
『はい! 主様は主様ですから! あ、主様、ちょっと入りますね』
「え、入るって何……って!?」
シディアは俺に近づいたと思ったらその姿を消してしまった。いや、俺の中に入っている?
『よかった、ちゃんと入れます。僕これからは主様についていきますね!』
おおぅ。なんか不思議な感覚なんだが……まぁシディアが喜んでいるならいっか。
『これで解決かしら? ほら、すんなり解決したでしょう?』
「あぁ、ありがとうな。俺たちだけじゃまだまだ悩んでいただろうから助かったよ」
『はい! エルさん本当にありがとうございました!』
『いいのよ。私にしてもマスターに頼られるのは嬉しいもの』
あとの言葉はちょっと小さくてよく聞こえなかったけど、二人とも楽しそうに笑っているから気にしなくてもよさそうだな。
なお、このままシディアを連れていてエルフに出会ってしまっても平気なものなのかと聞いてみると、俺の中にいる間はその姿をとらえることはできないので、気を付けていればそこまで問題ではないらしい。
『そういえば私たちの名前の由来ってどんなものなの?』
『あ、気になります!』
「ん? あぁ。エルはその髪と瞳の色があまりにも綺麗だったからそこから。シディアは黒い色しかわからなかったんだけどさ、こっちの世界に黒曜石っていう宝石があるんだけど、それを別の言葉でオブシディアンって呼ぶんだ。そこからとった」
二人に名前の由来について聞かれたので、そう答えておいた。
ほとんど第一印象のみで決めてしまっているけど、二人は気に入っているみたいなのでよかったと思う。これからも名前をつけることがあるのだろうか?
というわけで闇の精霊、シディア君は男の子でした。




