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精霊王の加護を受けし者  作者: 柊馨
渡り人 リョク ヤクモ
13/25

幕間 それぞれの思い

日にちが変わってしまいましたが更新。

今回は三人の視点でお送りします。

 ある日、珍しくパーティーメンバーがそれぞれ用事があるからと一人で薬草採取の依頼を受けて森に来ていたら、木に寄りかかって座っている男性を見つけた。


 何をしているかと思って声をかけてみれば渡り人であることが分かった。常識はやっぱり知らないみたいだし、自分がどれだけすごい存在なのかもわかってないみたいだったけど、わたしの話を真剣に聞いてくれるし、話していて楽しいと思える人だった。


 街へ向かう途中でウルフと戦うトラブルこそあったけど、わたしの魔術と彼の目覚めた魔術で無事撃退することができた。わたしの魔術をすごいと言ってくれたのが素直にうれしいと感じた。


 そのあとお互いの名前を知らないことに気づき、名乗りあった。リョク ヤクモさん。それが彼の名前。


 街に来て一緒に食事をした。思えば男性と二人きりで食事をするなんて初めてかもしれない。ちょっと照れくさかったけど、美味しそうに食べる姿は子どもみたいで可愛かった。


 そのあとはギルドに向かう。リョクさんの適正はすごかった。さすが渡り人だって言ってしまえばそれまでかもしれないけど、ちょっと嫉妬してしまったかもしれない。そしたら頭を撫でられてしまった。嫌な感じはしないで、むしろうれしいと思えた。


 魔術を教える約束をした。リョクさんならすぐに覚えてわたしを抜いて行ってしまうと思うけど、それでも楽しみに感じられた。


 楽しい時間はすぐに過ぎるもので、リョクさんとはその日は別れた。明日はまた森に行ってみるという。初めての依頼だからどうなるかわからないけど、リョクさんなら心配なんかいらないかな、と思った。信頼なのかな……


 次の日、いつものパーティーメンバーと会う。今日は街の外をちょっと行ったところにいる、ゴブリンの撃退。ウルフよりは強いけど、メンバーで戦えば問題はない相手かな。


「ライラってば昨日は渡り人に会ったんだってー? しかも男性だったって! これは春が来たかー?」


「……おめでとう?」


「もー! そんなのじゃないよ!」


 わたしを茶化して来たのがクリス。Eランク中位の短剣使い。一言だけ呟いたのはノエルちゃん。わたしと同じEランク下位で弓使い。


 基本的にはこの三人のパーティーで行動することが多い。攻撃力に難のあるメンバーだけど、クリスが前衛で、わたしとノエルちゃんが援護して戦うことが多い。


「いやいや、ライラさー。そのリョクさん、だっけ? その人の話をしているときすっごい楽しそうだったよ? こりゃもう惚れているかと思うじゃん!」


「……笑顔、だった」


「むー! そんなのじゃないって言ってるのに二人ともー!」


 確かに、リョクさんともパーティーメンバーとして一緒に依頼を受けられたらなぁ、とか思ったりもするけど、その、好きとかじゃないの!


「あははっ! ほんと、ライラの反応を見るのは楽しいね! あたしもその人に会ってみたくなってくるよ!」


「興味は、ある」


「だったら今度紹介するね! 優しい人だから安心して!」


 きっと楽しいだろうなぁ。そう考えると思わず笑みがこぼれてくる。


「楽しみにしてるよ! さって、そろそろ行こうか?」


 クリスがそう促す。たしかにそろそろいい時間だし、それに続いてわたしたちは街を出る。


 ふふっ。わたしも楽しみだなぁ。リョクさんは今、何をしているのかな?



◆◇◆◇



 この街に……いや、この国に一人の渡り人が現れた。リョクと名乗ったあの若造は渡り人らしく、その才能は異常。この一言につきる。


「……いったい何が起こるっていうんだ?」


 ここ数年、渡り人が複数人現れているらしい。この国に二人。隣国や海を渡った先の国にも一人、二人と現れているという。何か起こる前触れでなければいいが。


「ファング殿、ただ今戻りました」


「あぁご苦労。あの若造はどうだったよ」


 貴重な渡り人だ。オレは本人に気づかれないように護衛を出していた。いや、護衛兼監視者だな。


 こいつらの気配を絶つ能力は規格外のレベルだからな。その気になれば空気と同じように、いてもおかしくないかの如く、自然に漂う。


 本人には伝えていないが、渡り人は国に管理される。とはいえ実態はギルドが管理するようなもんだがな。知ったらどう思うんだろうな。ま、気にしちゃいられねぇか。


「どうもこうもありませんね。おそらく聖域に入りました。おかげで見失いましたよ。今は三人体制でその付近を探っておりますが……」


「なんだと!?」


 聖域に入っただと? “何か”に守られ、何人たりとも入ることができないと言われる聖域だぞ? そこに渡り人とはいえ人間が侵入できる場所ではねぇぞ。


「まるで何かに誘われるような様子でした。危険なものは感じなかったので、手を出したりはしませんでしたが……」


 ちっ。まぁ入っちまったもんは仕方がねぇ。まぁこいつらに任せていれば危険なことはそうそうあるまい。


 そのあともまた、おかしな話だった。


 なんでも若造は夜遅くなるまで聖域に入ったままで、暗闇の中出てきたと思ったら迷うことなく街に戻ってきたって話だ。


 道自体は難しいもんじゃねぇが、森は森だ。暗闇の中なんのスキルも術も使わずに帰ってこられるもんじゃねぇだろう……


 これが加護の力ってことか? だとすればなんだ、あいつは精霊にでも愛されてんのか? んなわけねぇか……精霊はエルフにしか見えない、限られた存在だ。


 たしかにそこに居るが、居ない。オレたち人間にとって精霊はそんな存在だ。力を借りることもできねぇし、加護を得るなんざありえねぇ。


「だが、そのありえねぇ存在が渡り人。とも言えるか」


 たいした情報もまだねぇからな。憶測だけでは仕方がない。今後も監視を続けるように指示し、オレも休む。


 はっ、ギルドマスター(街のトップ)も楽じゃねぇな。



◆◇◆◇



 変な人間に出会った。人間のくせに私たち精霊を見ることができる。それどころか下位精霊には無条件に好かれている。


 中位精霊である私も嫌うことができない。人間なんて自然を破壊していく野蛮な生き物だと思ったのに、この人の心は透き通っている。


 エル。私に名前を与えてくれた人間、リョク。普通ならいきなり名前を与えられたって拒否する。するはずなのに……


『なんで、受け入れちゃったのかしらね』


 私は受け入れた。しかも受け入れた瞬間に確かな温かさを感じた。


 私はこんなぬくもりを知らない。こんな人間なんか初めて見る。一緒にいられるだけで、この世界に生まれてきてよかったとすら思える。


 本当に変な人間。渡り人、彼らがいた世界には魔法は存在しないという。それなのにこんなにもこの世界を受け入れている。


『でも、馬鹿なのよね』


 思わず笑ってしまう。周りの子たちも一緒に笑っている。何にも知らない彼。一つのことを教えるだけで笑って、でも真剣に聞いてくる。


『私はここから出られないけど』


 私にはこの地を守る使命がある。たとえ名を得たとしてもそれは変わらないから。でも私は考えてしまう。


『いつか一緒に旅ができたらなぁ』


 無理だとはわかっているけど、彼と一緒にいたいと思う。もしかして、これが好きって気持ちなのかしらね。まだわからないけど、なんとなくそう思う。嫌な気持ちはまったく湧かない。目を閉じれば思い出す彼の姿、笑顔。


『でも……』


 何かが起ころうとしているような、そんな気がする。それが良いことなのか、悪いことなのか。それはわからない。


『王さま……』


 私は願う。願わずにはいられない。彼が幸せでありますように。


というわけで、ヒロイン二人とギルマスさんでした。

……男キャラが足りない!?

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