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精霊王の加護を受けし者  作者: 柊馨
渡り人 リョク ヤクモ
11/25

外伝 妹編①

今回はプロローグの別視点扱いとなります。

 今日はお父さんもお母さんも病院に行けないそうなので、あたしがお兄ちゃんのお見舞いに行く。


 お兄ちゃん。緑お兄ちゃん。2つ上のお兄ちゃん。あたしが生まれてすぐはよく面倒を見てくれた。ずっとずっと優しくしてくれると思っていた、大好きなお兄ちゃん。


「お兄ちゃん。今日は身体のほうは大丈夫?」


 病室に入って、窓の外をぼぅっと眺めているお兄ちゃんに聞いてみる。起きているのが珍しくて、それが嬉しくて思わず笑顔になりそうなる。


「……今日は体調がいいよ。だから、散歩に行きたい、かな」


 ぼそりと、声がした。散歩に行きたい。確かに聞こえた! 


「ほんとっ! じゃあ車椅子持ってくるね!」


 今度はしっかりと笑顔になっていたと思う。起きているだけでも嬉しかったのに、散歩に行きたいって言ってくれた。


「……でも、なんかいつもと違ったような気がする。なんか存在感が薄くなっていたような……」


 ううん、気のせいだよね。きっとあたしが浮かれてて変なだけだよ。


 ナースステーションに寄って、車椅子を借りて病室へ戻っていく。そしてほとんど動けないお兄ちゃんを頑張って車椅子に乗せる。そしてレッツゴー!


「お兄ちゃんと散歩するのも久しぶりだねっ」


「……そうだな」


 外はとっても晴れていて、まさに散歩日和! 夕方だから少し薄暗いけど、そのくらいのほうが身体にもやさしそうだし、うん、いい気分!


 あたしはゆっくりと歩きながらお兄ちゃんにいろいろと話しかける。お兄ちゃんはやっぱり眠そうでうつらうつらしているけど、ときどきちゃんと返事を返してくれる。でもこれ以上はやっぱり厳しいかな?


「お兄ちゃん? 大丈夫? 眠いなら戻ろうか?」


 そう問いかけると、少し間をおいてから頷いたのが見えた。やっぱり長い時間は無理だよね。でもこれから少しずつでも散歩に出られるといいんだけど。


 ゆっくりと、お兄ちゃんを起こさないように病室へと戻る。看護師さんにも手伝ってもらってベッドへと寝かせる。


「お兄ちゃん。部屋についたよ?」


 お兄ちゃんに一声だけかけて、簡単に部屋の片づけを済ませた後あたしは病室を出ていこうとする。


「……茜」


 そうしようとしたら起きていたみたいで、話しかけられる。小さい声だったけど確かに呼び止められた気がする。


「なーにー?」


 あたしはお兄ちゃんのほうへ振り向き声をかける。お兄ちゃんはベッドに横になったままだ。


「今日まで、ありがとな……」


「え? お兄ちゃん……?」


 突然どうしたの? あたしはお兄ちゃんの言葉に驚き、近づいてみて、愕然とした。


「あ、ああぁぁぁ……お兄ちゃん、お兄ちゃん――――!? どうしたの、起きて、起きてよ――――!」


 息を、していなかった。


 そしてその時は気にも留められなかったけど、一瞬。本当に一瞬だけ、お兄ちゃんの身体が光ったような気がした。











 その後、お兄ちゃんの葬儀は慎ましく行われた。でもあたしにはどうしても信じられない。お兄ちゃんが死んでしまったことが信じられない。


 葬儀の時にも最後に、ということでお兄ちゃんの顔を見たけれど、なんでかあたしにはその顔がお兄ちゃんの顔には見えなかった。


 お兄ちゃんはどこかで生きている。あたしの中ではそういった確信がある。でもお父さんとお母さんにそう伝えても、辛そうにこちらを見るだけで、信じてくれなかった。


 当たり前だというのはわかるけど、信じてくれない二人に嫌気がして、思わず家をとびだしてしまった。


「あたし、なにしてるんだろう……」


 お兄ちゃんがいなくなってしまって、あたしまでいなくなってしまったら二人とも悲しむと思う。お兄ちゃんの分まであたしが頑張らないといけないのに。


 でも、でも! あたしはお兄ちゃんにまた……また会いたい……


 死んだと認めてしまったら、もう二度と会うことができない。そう思うと周りの声を聴きたくなかった。


 そんな時、変な人に会った。


「こんばんは、お嬢さん」


 全身黒づくめの服装の怪しい男性だった。サングラスやマスクはしていないし、変質者ってわけじゃなさそうな結構かっこいい感じの人だけど、とても怪しい。


「……こんばんは」


 あたしはあんまり人に関わりたくなかったから、簡単に挨拶だけしてすぐにそこを立ち去ろうとした。でもできなかった。次の一言によって止められたから。


「八雲 茜さん。八雲 緑さんは元気ですよ?」


 あたししか信じていなかったこと。お兄ちゃんのことを言われたから。


「どういうことっ! おにいちゃん、やっぱり生きているの!?」


 あたしは思わず男性に詰め寄ってそう問いかける。お兄ちゃんが生きてる。それどころか元気? そうであれば嬉しい。でもなんでこの男性がそんなことを知っているのか。それをあたしに言うのかよくわからない。


「はい。元気です。詳しい話をしたいところですが今日はもう遅い。明日また会えませんか?」


 確かにもう夜だし、結構遅い時間だと思う。でもお兄ちゃんのことを言われたら引き下がれない!


「今教えて! すぐに!」


 だからあたしは聞くんだ。お兄ちゃんのことを。


「……ふぅ。仕方ありませんね。では説明いたしましょうか」


 そこからの話は信じられない事だった。お兄ちゃんの病の原因の話。別次元の世界の話。でも確かに生きていること。


「……それ本当なんですよね?」


「お嬢さんは嘘だと思いますか?」


 思わない。この人の話していることは絶対に真実だ。なんとなくあたしにはわかる。


「思いません……でも、それだとお兄ちゃんにはもう、会えないん、ですよね……」


 結局はそうだ。お兄ちゃんが生きているのは嬉しい。とても嬉しく思う。だけど、会えないってわかってしまうと、どうしても涙が出てくる。


「はい。会えません。ですが、お嬢さんがどうしてもというのならば。ならばお手紙を書いてくれればお兄さんにお届けいたしますよ」


「えっ! ほ、本当ですか!?」


「えぇ。自分はこちらの世界にも、あちらの世界にも移動が可能ですから。とはいえ、文通をするとしても、月に一度が限度です。自分の力も有限ですから」


 構わない。またお兄ちゃんと話が、直接じゃないとしても話ができるなら構わない!


 まだお兄ちゃんが返事をちゃんと書いてくれるとは決まっていないけれど、文通を始めることが決まった。あぁそうだ。お父さんとお母さんは信じてはくれないだろうけど、一応話さないと。あと、謝らないと。


「でも、どうして貴方がここまでしてくれるんですか?」


 あたしはそこだけ気になった。あくまでお兄ちゃんを別世界へと移動させただけで、お兄ちゃんを殺したってわけじゃない。むしろお兄ちゃんが生きていてくれたのはこの人のおかげのはず。


「……お兄さんのお願いなんですよ。家族が少しでも幸せに暮らせますようにって、ね。しかし見ていれば今のところ不幸になる未来しかない。自分には大した力はありませんから、このくらいしかできませんけどね。少しでもあなた方が幸せになれればと思いますよ」


 あ、あと直接世界の移動を行ったのは祖父で自分ではありませんよ、とこの人は言った。


 なんでも、一つだけなら願いを叶えると言った際、お兄ちゃんは真っ先にあたしたち家族の幸せを願ったらしい。やさしいお兄ちゃんらしいや。


「それじゃ、あたしは家に帰って両親に話して、手紙を書いてきます! また明日この場所でいいですかっ!」


「はい。構いませんよ。待ってますから、しっかりと書いてきてくださいね」


 にこりと笑う男性にあたしも笑う。今までのことが嘘のように身体が軽く感じた。二人にどう説明したらいいかな、とは思うけど、これからが楽しみになってきた。


 “お兄ちゃんへ、あたしたちは元気です”

というわけで妹救済? でした。

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