第九話 聖域と異常性
だいぶ予定と違う話に……
森でエルとの契約を交わしてしまった翌日。結局昨日は精霊たちと遅くまで遊んでいたために、薬草の採取を終えたにもかかわらずギルドへ報告しに行っていなかったので、ギルドに向かう。
ギルドに向かうその間に昨日のことを思い出す。昨日帰る前にエルが言っていたこと。俺がどれだけ異常かということについての続きだったが。
『私たち精霊の姿が見える、声が聞こえるということを誰にも言っていないのであればそのまま秘密にしておきなさい。通常精霊はエルフにしか見えないものなの。それを人間が見ることができるなんて知れたら面倒になりかねない。とくにエルフには知られないようにしなさい。全員が、とは言わないけど、エルフはとてもプライドが高いから人間が精霊と話していたりするのを、まして契約を済ませていることを知られたら五月蠅いわ。場合によっては攻撃されることもあるでしょうから、警戒しなさい』
と言われた。エルフという種族がいることに対しては別に驚きはないけど、プライドが高いというのはなんか以外に感じたものだ。こう言われたものの、エルフは自分たちの国からは滅多に出てこないからそっちに行くことがなければ基本問題はなさそうだし。
ついでにひとつ気になったことを聞いてみた。契約についてだがエルフが俺のように莫大な魔力を持っていた場合、契約しほうだいで問題ならないか、と。
『あなたのような魔力持ちはそうそういないでしょうけど……確かに可能。でも得るものはそう多くないわよ? 下位精霊とは契約しても大した力はないし、私たち中位精霊だってそこまで力は大きくない。上位精霊までいけば結構な力を得られるでしょうけど、精霊だって黙って契約に同意するわけじゃない。拒否されることだってありえるわ。その場合は魔力だけ失って損するだけ。もちろん力づくで隷属させることも可能だけど、そうしたら精霊の力は本来のものより落ちる。だから普通はこんなことしないの。あなたがおかしいの、馬鹿なの。理解した?』
説明、してくれたし納得もできたけど、なんで最後は馬鹿にされたのだろうか……たしかに何も知らないけど、そこまで言われるものなんだろうか。
「ま、気にしすぎても仕方ないか。そうこう思い出している間に着いたし」
中に入ってみると朝も結構早いからか、そこまで人の数は多くない。俺はとりあえず受付に行く。
「あらーおはようございますー」
「おはようございます、エイミさん」
そこにはエイミさんがいて、挨拶をしてくれる。なんかこの人いつもいる印象が……いや、まだ対して来ていないんだからわからないか。
「昨日はどうでしたかー?」
「とりあえずグラー草の採取は済みました。似たような薬草もあったのでとりあえず採ってきてみたんで、見てもらってもいいですか? なんだかわからなかったですけど、よさそうなものだったので」
俺は受付台に昨日採ってきた薬草を出す。数は30と少し。ほとんどグラー草だと思うけど、色が違ったり、葉の形が違うような気がするものもある。
「はーい。確認させていただきますー……あらー、ずいぶん状態がいいんですねー、すごいですー……あらー?」
薬草の確認をしていたエイミさんであったが首を傾げつつ、冷や汗を流している。もしかして毒草の類だったりするのか? だったらまずいような……
「ちょ、ちょっと待っていてくださいねー」
それを聞く前にエイミさんはパタパタと走って奥に行ってしまった。いや、本当になにが混じっていたわけ?
そこから待つこと数分、エイミさんが戻ってくる。
「すみませーん。ファングさんが呼んでいますので、よろしいですかー?」
「え? あ、はい。わかりました」
待て待て待て、ファングさんから呼ばれるほどまずいものが混じっていたのか!? 俺はビクつきながら部屋に行く。
「すいません、失礼します」
「あぁ、入ってくれ」
軽くノックし、扉を開ける。そこには俺が持ってきた薬草(毒草?)を広げて待っているファングさんがいた。
「よし、座ってくれ」
最初の時と同じようにソファーへ座る。さて、一体なんなんだろうか……
「単刀直入に聞くぞ。お前はこれをどこで採ってきた」
「えっと、最初にライラと出会った森ですけど?」
あの森に何かあるのか? 精霊が守っている場所から採ってきたから問題だったとか? わかるものなんだろうか。
「これとこれ。【ギド草】と【クラン草】なんだがな」
グラー草に比べて若干色が紫に見えるやつと、葉っぱの形がちょっと違うように見えたやつだな。
「ギド草は毒草だ。とはいえ調合次第では万能薬とすら言われる薬に化ける代物だ。クラン草は単純にグラー草の効果が高いやつと思ってくれればいいんだが……この二つはあの森には自生していないはずなんだよ。一部の箇所を除いてな」
「はぁ……一部にはあるんですよね?」
きっとそれが俺が昨日エルと出会った場所なんだろうけど。
「あぁ“聖域”と呼ばれる場所にのみな。お前は森の聖域に入ったわけだ」
「えっと、確かにほかのところとは感じの違う場所には入りましたけど、問題だったんですか?」
入っちゃいけない場所だったら嫌だな。エルに会えなくなってしまう。
「特別に禁止している場所じゃねぇよ、安心しな。ただな、ここは結界に守られていて入れないはずなんだよ。お前どうやって入ったんだ?」
「どう、と言われても……誘われる気がしたんですよ。それでそこに行きつきました」
とりあえずこう言っておく。精霊云々は言わないほうがいいってことだから黙っておくけど。
「誘われただぁ? っとに渡り人は規格外だな。まぁいい、今後も入るなとは言わねぇがそこから何かを持ってくるのはやめておけ。安定して採れるならいいが、そうでないなら争いの元になりかねねぇ。この薬草はギルドで買い取っておくってことになるからな。それでいいな?」
「……とりあえずこっちの常識については疎すぎるので、それでお願いします」
そんなに大袈裟なものだったのか。あまりたくさん採ってこなくてよかったと思うべきかな。
「まずグラー草は21本あったから、依頼は2回分ってことになる」
まずこれで銅貨10枚だから……半銀貨1枚か。1本分は半銅貨2枚で買い取ってくれるらしい。
「次にギド草とクラン草だが5本ずつあった。それぞれ1本で銀貨1枚だ」
そう言ってこっちに銀貨10枚と半銀貨1枚、半銅貨2枚を渡してくる。ってはぁ!?
「あぁ、半金貨にしちまうと使いづらいだろうからな。銀貨で渡しとくぜ」
「いやそうじゃなくって! 多すぎませんかこれ!?」
明らかにおかしいだろ。グラー草の500倍の価値になるぞ!
「こんなもんだ。この2種類に関しちゃ、この界隈じゃなかなか採れないからな。価値が高い」
もっと都会のほうへ行けば若干ながら安くなるかもしれないらしい。それにしたってこれは高すぎないかよ……
「ふん。お前は装備も何もないんだろうが。それで整えろ。そうすりゃあっという間に飛ぶ金だ」
……そういえばそうだった。武器に関しては使えるかわからないけど、着るものとかは必要だもんな。
「わかりました、これで装備を整えることにします。ありがとうございます」
「ならオレの用事はこれだけだ。さっきも言ったがこれからは採ってくんなよ」
「わかりました。気を付けますね」
失礼しますと一声かけ、俺は部屋を後にする。とりあえず思ったより時間がかかってしまったし、装備を整える前にエルたちに会いに行くかな。でもその前にまた遅くなるかもしれないと女将さんに伝えておこう。
ギルドを後にして、宿に向かい、女将さんに遅くなるかもしれないということを伝える。
「おっとお待ち、坊や宛に手紙を預かっているよ」
そう言って手紙をこちらに渡してくる。
「ありがとうございます」
「たぶんそこに差出人の名前が書いてあるんだと思うんだけどね、どうも読めない字で書いてあるんだよ。坊やは読めるのかい?」
手紙? しかも読めない字で書いてある? どちらにせよ俺にはこっちの字は読めない……って。
「……これ、マジか」
日本語だ、これ。しかもこの内容……ははっ。ありえないことだと思っていたけど、嬉しいことしてくれるものだなぁ。
「本当に、ありがたい話だ」
俺は手紙を読んだあと、足取り軽く、森へと向かうのだった。
本当に森での話どこいった感じになってしまった。




