序章Ⅰ:17年前
【サラン王国新聞号外】
アル王子 誘拐される!―王宮兵士は必死の捜索―
昨晩、何者かがサラン城に侵入し、王子を誘拐。王子が行方不明となった。王宮兵士は懸命の捜索をしているが、依然として王子は発見されない。カイ国王は、国民に対し「警戒を怠らないように」と注意を呼び掛けた
この国の王子が誘拐された・・・。その事は、国民への恐怖となっていった。
「お兄ちゃん・・・どこにいったのー?今日はユカと遊んでくれる約束でしょー?」
まだ幼いユカは、何も知らない。
「お兄ちゃんは急用が出来たのよ。今日は遊べないってさ」
ルカがそう言うと
「お兄ちゃんの嘘つきー!」
ユカは怒りながらどこかに行った
「(ユカには、お兄ちゃんが誘拐されたなんて・・・わかるわけないよね)」
ルカには、お兄ちゃんが見つからない予感があった。
次の日になっても兄は帰ってこない。
「お兄ちゃん・・・今日もいないね」
ユカが不機嫌そうに言うと
「ちょっとは我慢しなさい!」
ルカはいつの間にか怒鳴っていた。
「おねーちゃんの意地悪・・・」
ユカは泣いていた。寂しいのだ、兄がいなくて。
「ごめんね・・・おねーちゃんが悪かったよ」ルカも泣いていた。今まで溜めていた涙を全て出すかのように。
「お兄ちゃんは帰ってくる・・・私たちを見捨てるはずがない」
ルカはいつの間にか呟いていた
「おねーちゃんのいう通りだよ!きっと帰ってくる」
ユカも泣き止んでいた。
それからさらに数日がたった。
相変わらず兄は帰ってこない。
その時・・・一通の手紙が送られてきた。
『この手紙が届く頃には、王子の命はもう尽きている。残念だったな。哀れな国王さん』
全国民がこの手紙に怒りと憎しみと悲しみを覚えた。
それと同時に、残された妹二人が哀れに思えた。
「おねーちゃん・・・これって・・・」
ユカが悲しそうにいうと
「もう・・・お兄ちゃんは・・・いない・・・」
その言葉と同時に涙が溢れた。
二人は三日三晩泣き続けた。
しかし、これよりも大きな悲しみが・・・迫っていることなど、この二人は知るよしもなかった・・・