エピローグ
扉についている鈴が元気良くなり、威勢のいい声と共に一人の青年がギルドに入ってきた。
「っちわーすっ!」
厨房から親父さんが顔をのぞかせる。
「おや、アレン。戻ったのか」
「依頼もこの通り」
自慢げに、依頼書をカウンターに置く。ギルドの依頼は、依頼を達成し、依頼主の署名を貰えば達成となる。そして報酬はギルドのほうから支払われる。
「たしかに。ほら、報酬だ」
「あっざーす」
エレイドがそんなやり取りを見守っていると、アレンがエレイドたちに気付き、近づいてきた。
「エレイドさん、どうも~。ナークから聞きましたよ~?俺がちょっと遠出している間、大活躍だったみたいじゃないですか!新しい剣も手に入れたと聞きましたし!」
目を輝かせながら、エレイドたちのテーブルに座る。こいつは元気がいいのが取り得なのだが…ちょっと、良すぎる事が多い。
「ああ…」
「どうしたんですか?浮かない顔して?」
「今回の騒動でだいぶ金を使う羽目になったからな、財布の中身がかなり乏しくて。ついでに、仕事も乏しいときた」
そして『チャーグ』に目をやる。頭の痛いことばかりだ。そう心の中で付け加え、エレイドはジョッキを口に運ぶ。ちょうどその時、ギルドの主人がアレンにもジョッキを運んできた。
「親父さん、そうなんですか?」
アレンはビールを受け取りながら、ギルドの主人に不思議そうに聞く。
「珍しく、少し暇でな。いま残っているのは、来たばかりの新人二人用に取ってある、小さな仕事が二、三。あっ、いらっしゃい!」
苦笑しながら主人は、客が来たためカウンターに戻った。一瞬、依頼人かと思ったが、ただ食事をしにきただけらしい。
「はあ…」
「うーん。あっ、そういえばエレイドさん、城で剣術指南やってたんじゃないですか?」
「バーンが復帰して、俺はお役御免」
「あっ、じゃあ研究室での素材集めは?」
「しばらくは発表の準備で忙しいから、必要ないってさ」
「じゃあ、もうダットさんで見世物やるしかないっすね」
その言葉に、テーブルの上に寝そべっていたダットが突然起き上がり、毛を逆立てた。アレンも飛び上がるように立ち上がる。
「う、うわ。冗談ですって。冗談!」
ダットがまた丸くなったのを見ると、アレンは恐る恐る座った。
「ふぅ。生きた心地がしなかった」
「お前もお前だ。こいつを怒らせるようなことを言うんだから」
エレイドは笑いながら頬杖をつく。
「この際、報酬はいくらでもいいだけどな。けど新人のあいつらの仕事を取るわけにも行かないし…お前、なんか情報ないか?」
「う…ん」
少し考えこむと、アレンは突然何かを思いついたように指をならした。
「そうだ、ミラへ行って見たらどうです?」
「ミラって港町のか?」
「依頼の途中、寄ったんですけど、人手不足みたいで…。掲示板も依頼で埋もれていましたし、あそこのマスターもかなり忙しそうでしたよ。帰りも三日前に寄ったんですけど、あんまり変った様子はなかったな~」
「確かに、そこだったら仕事にありつけそうだな。行ってみるか?」
ダットが面倒そうに小さく鳴く。これは一応賛成の返事。隣のテーブルの食器を片付けながら、会話が耳に入ったのか、主人が口を挟んできた。
「ミラでそんなに人手不足とは初耳だな…。ミラのギルドマスターは…」
ふと相手の顔を思い出したのか、主人の口もとが笑みに変わる。
「…あいつか。エレイド、行く気だろ?ちょっと待ってろ。あいつとは付き合いが長い。紹介状書いてやる」
汚れた食器を持って、厨房へ消える主人を目で追いながら、エレイドは残ったビールを一気に飲み干した。