第8話 新人騎士リーバンスは、二年で身長が三十センチ伸びた。
「半人前ですが、足を引っ張らないように勉強させていただきます。」
銀髪の見習い騎士は、少し俯きがちに挨拶した。アリストラと離され、心細いのだろう。人見知りが再発したようだ。
リーバンスは、変わらない姿にホッとした。
すでにガックリと肩を落とし、青白かった彼女の顔は、半日後にはさらに生気を失っていた。
「うう……。」
騎士団の屈強な男たちに埋もれながら、走り込みと、素振り、打ち合いを終えたリリアーナは、訓練場の隅で膝をついて、吐き気に耐えているようだった。
手も足もがくがくと震え、生まれたての子鹿のようだ。
「初日に第一騎士団の訓練についてこられるとは、さすがですね。午後からは、王城周辺の見廻りです。」
さあ、馬を選びに行きましょうと手を差し伸べると、彼女は顔を上げ、自信なさげに言葉を発した。
「リーバンス?」
「忘れられたのかと思ったよ。」
パァっと表情が明るくなった。顔つきは大人っぽくなったが、笑った顔は、あの時のままだった。
第二騎士団は、討伐や戦争に出るため、王都ではあまり姿を見ない。知り合いに会うとは思わなかっただろう。
「あの後、見習いから騎士になりました。王城の警備に志願し、第一騎士団におります。」
会うのは、ドラゴン討伐の旅以来二年ぶりだった。
「ステキな騎士様になりましたね。」
「リリアーナ嬢も、美しくなられて。」
「四つん這いでえずいていた女にそう言えるとは、騎士道精神もバッチリだね。」
リリアーナはヨロヨロと歩き出し、話をするうちに顔色を取り戻し始めた。揺れる銀髪を見ると、二年前を思い出す。
「二人は、王子の元にいるのかと思っていたよ。」
王子とは、エルネンのことではなく、トラッド王国のカイン王子のことだ。
討伐までの山中、リリアーナとアリストラ、カイン王子と四人でよくいっしょに行動した。歳が近く、すぐに仲良くなった。
短い間だったが、楽しい日々だった。
「さあ、あれ以来会っていないな。私たちは、ずっと戦場に駆り出されていて。」
彼女は、首についている鎖を触って言った。
「ここよりずっと西にいたんだよ。やっと帰ってきたと思えば……。そっか、この国はトラッド王国に近いんだね。」
この大陸には小さな国が多く存在し、そこかしこで戦争が起きている。中でもこの国、ハイラル王国と、トラッド王国は、領土合戦で国を大きくし続けていた。
「カイン王子の武勇は、この国にいても耳にするけれど。」
負けのない黒い甲冑の王子は、戦場で恐れられていた。
「トラッド王国はまだこの国の友好国だから、エルネン王子の側にいれば、いずれまた会うことができるかもしれないね。」
しかしどうだろう。戦争だらけのこの大陸で、その関係はいつまで続くのか。
「それは良いね。カイン王子にも、会いたいな。」
彼女は明るく、無邪気に言った。




