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第5話 騎士団長エドワルドの災難

「これが、王宮の舞踏場かあ。」


 二人は、口をあんぐり開けて周りを見渡していた。


 三階吹抜けのホールだ。白で統一された会場に、金の装飾がキラキラと輝く。招待客は、国内外の権力者ばかり、百人くらいか。


「下の光は、魔法陣ですか?こんなに大きいものは初めて見ました。」


 アリストラはワクワクと、赤い瞳を輝かせながら聞いた。


 ホールの床全体に大きな円型の模様が、青く光っていた。魔法使いは、能力が高いほど大きな魔法陣をつくる事ができる。


「王宮の魔法使いだよ。これは、魔法禁止の魔法陣だね。」


 玉座の斜め後ろに、白い口髭を蓄えたおじいさんと、その隣に女の子が立っている。魔法使いとその弟子だ。


「うわあ、魔法使いっぽい。」


 リリアーナも、楽しそうだ。


 玉座は空だ。王は挨拶をすると、早々に退出したようだった。


「この建物は、武器の持ち込みが禁止されているし、魔法も使えない。何も起こらないはずだから、大人しくしているんだよ。」


 エドワルドは、騎士団の制服を雑に着せた二人を、目立たないよう扉の横に立たせた。


 自分たちも、剣を持ち込んでいなかった。建物の外を、騎士団たちが守っている。


 剣のない剣士に、できることはない。


 新しい護衛がついた初日は、トラブルが発生するというジンクスがあるらしいが……。


(気にしてもしょうがないか。)


 今は、二人のピュアな反応を楽しんでいた。


 形式的なことが終わると、後は舞踏会だ。


 ファーストダンスは主役が踊る。招待客は壁際に下がり、エルネンがホールの真ん中に向かって歩いていく。


「ほら、君たちの王子様が出てきたよ。」


 赤い正装がよく似合う。本の挿絵のような王子様。誰もが目を奪われるだろう。


 返事のない二人の方を見ると、天井から下がる大きなシャンデリアを、虫を狙う猫のようにジッと見上げていた。


「どう思う?あれ。」


「アリスの魔法陣じゃないの?」


「そんなわけないだろ。」


 二人は上を向いたまま、アタフタと慌て出した。


「どうした?」


「あのシャンデリア、多分落ちてきます。」


 アリストラの言葉を待っていたかのように、シャンデリアはヒュッと動き出した。


「殿下!」


 体は勝手に動き出す。ザワザワと、会場が騒然とする気配を感じる。


 走り出す瞬間視界の隅で、アリストラが天井に向かって手を構えたのが見えた。駆けながら、上を見上げる。


 下に、赤い魔法陣が現れるが。


「「「「「小さい!」」」」」


 会場が一体となった瞬間だった。


 手のひらサイズの魔法陣は、シャンデリアの重さに負けたのか、禁止の魔法に負けたのか、簡単にパリンと割れた。


「なにくそ!」


 アリストラは手を下ろさない。


 また、同じ大きさの魔法陣が出る。割れる。出る。割れる。パリン、パリン、パリンパリンパリンパリン。


 床に向かって螺旋状に魔法陣が現れる。


 シャンデリアは、魔法陣に引っかかり、割りながらスピードを落とし、ガシャガシャと落ちてくる。


 その音を祈るような気持ちで聞きながら、バッとエルネンに飛びつき、覆い被さった。


 後ろを走っていたのだろう。ワンテンポほど遅れて、リリアーナが目の前に滑り込んできた。


「アリス!」


 目の前に、同じく小さな魔法陣が現れた。リリアーナはそこから何かを素早く引き抜くと、魔法陣が割れた。


 喧騒は止んだのか、緊張で聞こえなくなったのか。


 無意識に、王子を抱える手に力が入った。


 死ぬ直前はゆっくり時間が流れるというが、こんな感じなのだろうか。


 あのシャンデリアがこんなに大きかったとは、知らなかった——


 キンッと静かな金属音がした思うと、両耳からグラス同士が何百個も叩きつけられたかのような爆音が響いた。


 キーンと耳鳴りがした。それが止み、少しの静寂の後、招待客からパチパチと拍手が聞こえだした。


 左右床に、真っ二つになったシャンデリアが広がっている。


 リリアーナは、いつの間に持っていた剣を鞘にしまった。アリストラがこちらに走ってくる。


「大丈夫か?」


「相変わらず、しょぼい魔法陣だね。」


「うるさい!」


 子供達が困る様子を楽しんだ罰だったか。冷や汗をかいたのは、久しぶりだった。


 エルネンが、力の抜けた腕の中からモゾモゾと顔を出した。


 王子はケラケラ笑い合う二人を、羨ましそうに見上げていた。


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