第11話 第二王子エルネンは、銀髪の女剣士と踊る
「すると騎士たちは、仲間同士で斬り合いを始めたのです。あれにはびっくりしましたね、殿下。」
「話が下手だな、リリーは。時間になってしまったじゃないか。」
アリストラが呆れて言った。四人は、舞踏場に戻って来ていた。
次が、最後の曲だった。
「私が手にしたドラゴンの能力は、操舵の魔法だったのです。」
カイン王子はやや焦りながらそう言うと、周りをキョロキョロと見回した。
「あとは、リリアに聞いてください。では、また。お前たちも。」
パッと手を振り、行ってしまった。
向こうで、王女の手を取りダンスに誘っているのが見える。
女騎士がそれを、名残惜しそうに見ていた。
「お嬢様、私と一曲いかがですか。」
リーバンスはその前に立ち、手を取る。
「おいおい、お嬢様だって。王国一の騎士様、宜しければ私と。」
アリストラは少しおどけて、大袈裟に跪く。
「私と、踊っていただけますか。」
第一王子エルネンは、ソッと手を差し出した。
「光栄です。」
彼女ははにかみ、僕の手を取った。ホールの中央に、音楽の中へ、手を引かれる——
「王子様には敵わないな。アリス、俺の応援はしてくれないのか。」
「なんだよ、リーバンス。エスコートしていた女性はどうしたんだ。」
「あれは、妹だよ。」
「なんだ、妹か。」
アリストラは、嬉しそうにリーバンスの背中をバシバシ叩いた。
その手を振り上げると、小さな魔法陣がそこかしこに現れ、舞踏場が、輝きを増す——
そのキラキラを纏い、リリアーナは銀髪を揺らして、クルッとターンした。
「上手だね。」
「エルネン様に褒めていただけるとは。練習した甲斐がありました。」
こんなに無防備な笑顔は珍しい。酒を、少しでも飲んだのだろうか。それとも、この舞台に浮かれているのだろうか。
「三人の中で、誰が一番良かった?」
それとも、初恋の相手と再会して、感情が抑えられないのだろうか。
「良かったとは。ダンスの良し悪しは、私にはよくわかりません。そんなことより……」
ゆったりとしたテンポ。騎士は斜め上を見ながら、器用にステップを踏む。
「ドラゴンの能力は、知っているものでしたか?東の森にはもういません。カイン王子の時は……。」
「今は、ダンスに集中して。」
グッと、手に力を込めた。足を揃えてターンだ。多少強引だったが、彼女はしっかりついてきた。
「……兄上とは、なぜパートナーに。」
「大会の後、誘われたのです。剣の腕を、気に入っていただいたようで。」
「ダンスは、どこで。」
「第一王子と踊ることになったものですから、昨日の晩、急いでリーバンスに教わって。」
「この傷は、ドラゴンの爪痕なの。」
彼女のドレスは、背中が大きく開いたデザインだ。引き締まった筋肉質な背中に、大きな三本の傷跡が刻まれていた。
「ダンスに集中しろと仰ったではありませんか。質問ばかりして。くすぐったいです、エルネン様。」
傷跡は抉れていて、ザラザラしている。周りの皮膚は、傷に沿って少しひきつっていて、その部分だけプニプニしていて柔らかい。
そのプニプニを、指でなぞった。
「ヒヒッ。」
ずっと、こそばゆいのを我慢していたんだろう。彼女はとうとう身を捩って、口元を押さえた。
目に涙が溜まっている。それが、キラキラと光を映して——
「あ、ごめん。」
動揺して、ステップを踏み間違った。僕たちは、足を引っ掛け、倒れ込む——
音楽は終了した。この舞踏会も、今年の祭りも。
「……上手いと言ったのは嘘だよ。今度は、僕がダンスを教えるから。」
なんとか床に両手をついた。すぐ目の前で、淡い紫色の瞳が、パチパチと瞬きをした。
「光栄です。」
今のは絶対、僕のミスだったけれど。
彼女は嬉しそうに、その目を細めた。




