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ドラゴンを斬った女の初恋  作者: 9iyus
第四章 青春と剣
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第9話 隣国の王子カインは、夜空を見上げる

 その女騎士は、すでに囲まれ、数人から同時にダンスの申し出を受けていた。


「レディ、私と踊っていただけますか。」


 出遅れたが、手を差し出すと、困った顔がパッと明るくなった。


「喜んで。」


 着飾った姿は別人のように思えたが、ギュッと強く握られた手は、紛れもなく彼女の手だった。


「助かりましたよ、カイン王子。」


 二人は色とりどりの、花たちの中だ。


 タッカタッカとステップに合わせて、リリアーナの大ぶりなイヤリングが揺れた。


「俺もだよ、リリア。王女にはフラれてしまったから。見ただろう、あの仏頂面。」


「王女様は、誰にでもあの調子です。」


 しかし、そうは思えない。王女アルビラは、なぜかアリストラの手を取り、ダンスを踊っていた。


「お前たち、この国で一体何をしているんだ?」


 女騎士は手を離し、クルッと一回転して見せた。赤いドレスが波のように揺れ、広がる。


 その手を掴み、再び引き寄せた。


 まさかこんなところで会うとは思わなかった。暗殺か、スパイか。敵なんだか、味方なんだか。


「あれ、テオール殿下から聞いてませんか。」


 聞いているとも。まさかこの二人のことだとは。


 戦場だ。矢が降り注ぐ中、第一王子は、城に残した弟の心配をしていた。最近その周りを、怪しい護衛が彷徨いているのだと言う。


「……気に入らないな。」


「エルネン様のことですか。美しい方でしょう。」


 兄王子とは似ても似つかない。張り付いた笑み、隠した本性。穏やかなのは、卑怯者の仮面ではないのか。


 彼女はおっとっと、と、テンポを崩す。


「さっきから、俺の足をそんなに踏みたいのか。」


「踏みたくないから、こんなに不恰好なのですよ。ああっ。」


 とうとう、足を捻り崩れ落ちそうになった。腰に当てていた手で受け止め、そのまま抱き抱えるようにして、ホールを離れた。


 しなやかで、鍛え上げられた体つき、なんだか。


「大きくなったな。」


「私にしか、言わないでくださいね。そんなこと。」


 顔を手で覆う彼女を、バルコニーに下ろした。人はおらず、扉を閉めると、音楽も、騒めきも、遮断された。


 月明かりの下、二人きりだ。


「リーバンスには、会いましたか。昨日、夜通しダンスを教えてもらって。」


 リリアーナは、靴を脱いで手すりにもたれかかり、フーッと息を吐き出した。


「実は、最初と最後の曲しか練習していないのです。私には、リズム感がないそうで。」


「心配するな、騎士には必要ないさ。……騎士に、なりたかったのか。ステラの傭兵団はどうするんだ。」


 彼女はそれには答えず、吸い寄せられるように、夜空を見上げた。


「この国には、いつまでいるんだ。騎士になりたいのなら……。」


 自分の国でも、構わないのではないか。このまま、連れ帰ってしまいたかった。今も、あの時も。


 月明かりを浴びた彼女の横顔は、二年前よりも大人びていて——


「それが、騎士になりたいわけではなくて。そばであの方をお守りするために、騎士の方が、都合がいいというわけです。」


 その瞳はもう、自分の方を向いてはいなかった。


「……そうか。」


 ガチャガチャと音がして、扉が開く。


「聞きましたかエルネン様、感動したのでは。」


「いや、なにも聞こえなかったよ。なに?」


「カイン王子、テオール殿下が探してましたよ。」


 ガヤガヤと、騒がしく入ってきたのは、エルネンと、アリストラと、リーバンスだ。


「アリス、どうしてここがわかったんだ。」


「王女様はどうしたの。」


 三人は、終わらない挨拶とダンスの誘いから逃げてきたらしい。ふぃーっと空を仰ぎ、息を吐いた。


「王子殿下。俺の耳が、犬よりもいいことを忘れたのですか。」


 アルビラ王女は、大好きな兄、テオールと至福の時間を過ごしている。


「テオール殿下に睨まれてたよな。」


「また殴られるかと思いましたよ。……カイン王子。もしかして、おじゃましてしまいましたか。」


 全部、聞いていたくせに。


「いや、いいんだ。」


 魔法使いに、バシバシと、背中を叩かれ笑い飛ばされる。相変わらず、察しのいい男だった。


「エルネン王子。ドラゴンを、探しているんだそうですね。」


 俺から。ドラゴンを斬った男から、聞きたいことがあるはずだ。


 第二王子は、ジッとこちらを見た。


 わずかな光も集める碧眼。サラサラ揺れる金髪、困ったような、影のある表情。


 こういうのが、いいのだろうか。

 


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