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ドラゴンを斬った女の初恋  作者: 9iyus
第四章 青春と剣
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第8話 舞踏会の皆さんは、第二王子を応援したい

「リリーは、踊れるのかな。」


 エルネンの問いに、アリストラは首を傾げた。


 王子は今日、白の正装姿だ。キラキラしたその場に溶け込むようで、肩から下がる青いリボンが、瞳と合って、美しい。


 建国祭の最終日だ。城では舞踏会が開かれる。


 参加者は、剣術大会に出た者とそのパートナーが中心になるため、若い騎士がたくさん集まっていた。


 二人は、豪華絢爛な会場の隅で壁にもたれ、若いペアが次々と入場するのを、ボーッと眺めていた。


「アイツは、王女様と踊るのでしょう。大丈夫かな。」


 優勝者は、ティアラを捧げた相手と踊るのが定石だ。


 彼女はあの時、泣き止まない王女の頭にソッとそれを乗せたのだった。


「アルビラか。そういえば、昨年は兄と踊ったんだよ。」


 その年、第一王子テオールは、愛する妹に優勝の証を捧げた。


「兄上は、王妃にどれだけ酷い目に遭わされても、妹のことはかわいいらしい。」


「エルネン様、もしかして王女様に嫉妬しているのでは。……テオール王子と踊りたかったのですか。」


「いや、そうじゃなくて。」


 ザワザワと、会場が沸いた。入場したのは、隣国の王子様。カイン王子だ。


「あれ、王女様じゃないですか。」


 アルビラ王女はその手を取り、長い階段を無表情で降りる。


「ぎこちないなあ。」


「緊張感があるね。」


 王子と魔法使いはクスクスと、その気まずそうな二人を見て笑った。両国の信頼をアピールするためだ。思春期の羞恥心など、邪魔なだけだ。


「あ、リーバンスだ。」


「わ、女の子と来たんだ。」


 こちらは仲睦まじく、腕を組んで仲良く降りて行く。


「……エルネン様は、女性をエスコートしたこと、ありますか。」


「婚約破棄された相手なら。」


「……申し訳ございません。」


「謝られる方がつらいんだけど。」


 そろそろ、招待客は集まっただろうか。ファーストダンスは、優勝者がすることになっている。


「いいさ。アルビラと、カイン王子に踊ってもらおう。」


 王子がつぶやいたその時、会場はスーッと静かになった。皆の視線が、やや遅刻気味に現れた、この国の英雄に注がれる。


 第一王子テオールだ。黒の正装姿は、この会場に浮くような存在感を放つ。金のボタンと、黒髪から覗く青い切長の瞳が、夜空の星のようにキラリと光る。


 パートナーは、高いヒールに足元をフラつかせていた。テオールは、フッと笑ってその手を取った。


 会場から、ホゥ、とため息がもれる。


「間に合ったか。よかったですね、エルネン様。」


「……うん。」


 音楽が始まる。


 足元を見ながらおそるおそるステップを踏むレディを、第一王子は強引に引き寄せ、リードする。


「まるで、どこかのご令嬢みたいですね。」


「……そうだね。」


 息が合うようだ。足を揃えたターンは鮮やかで、クルクルと、皆の目を惹きつける。


「なかなか、お似合いではないですか。」


「……うん。」


 何を話していたのだろう。音楽が終わっても、手を取ったまま、笑い合っていた。


「おいアリス、久しぶりだな。エルネン王子、俺を覚えていますか。」


 二人は後ろから声をかけられた。カイン王子だ。不機嫌な王女様を持て余したらしい。


「王子殿下、また会えるとは思いませんでしたよ。王女様、今日も美しくてらっしゃる。」


 アリストラがうやうやしく礼をすると、アルビラはフンッと、高飛車に鼻を鳴らした。


 そうこうしていると、人が集まってくる。


「エルネン、アルビラ。祭事を任せてすまなかったな。」


 エルネンの頭を後ろからワシワシと撫でたのは、ダンスを終えた、兄王子のテオールだ。


「カイン王子、お久しぶりですね。必ずまた会えると思っておりましたよ。」


 そのまた後ろからヒョコっと顔を出したのは、そのパートナーを務めた今日の主役、リリアーナだった。


「俺もだ。なんだか、別人みたいだな。」


「今日だけですよ。」


 照れたように笑う女騎士に、テオールは言った。


「相手がいたなら、言ってくれれば。」


「いいえ、そんな関係ではありませんよ。」


「第二騎士団に入れば、またカイン王子とも会えるだろう。どうだ?」


「それが、第一騎士団に入ると約束して、大会に出たものですから……。」


 彼女は黙ったままのエルネンを見て、おそるおそる声をかけた。


「あの、勝手なことをして、申し訳ございませんでした。」


 彼女はソッと手を伸ばし、無遠慮に撫でられ、くしゃくしゃになった第二王子の髪を整えた。


「今日の正装姿は、いつにも増して素敵ですね。」


「あ。」


(((いけ、今しかないだろう。)))


 王子たちの周りには、挨拶をしたい者や、ダンスの申し込みをしたい者で溢れかえっていたが、皆、その一言を待ってあげていた。


「…………ありがとう。」


(((ああ……。)))


 リリアーナは返事が返ってきてホッとしたのか、フフッと笑った。


 化粧をしているのか、赤い唇に目が留まる。


 ドレスも同じ、深い赤色。肩まである銀髪は、編み込んで片側に流している。


 今日の彼女は、美しかった。


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