第8話 舞踏会の皆さんは、第二王子を応援したい
「リリーは、踊れるのかな。」
エルネンの問いに、アリストラは首を傾げた。
王子は今日、白の正装姿だ。キラキラしたその場に溶け込むようで、肩から下がる青いリボンが、瞳と合って、美しい。
建国祭の最終日だ。城では舞踏会が開かれる。
参加者は、剣術大会に出た者とそのパートナーが中心になるため、若い騎士がたくさん集まっていた。
二人は、豪華絢爛な会場の隅で壁にもたれ、若いペアが次々と入場するのを、ボーッと眺めていた。
「アイツは、王女様と踊るのでしょう。大丈夫かな。」
優勝者は、ティアラを捧げた相手と踊るのが定石だ。
彼女はあの時、泣き止まない王女の頭にソッとそれを乗せたのだった。
「アルビラか。そういえば、昨年は兄と踊ったんだよ。」
その年、第一王子テオールは、愛する妹に優勝の証を捧げた。
「兄上は、王妃にどれだけ酷い目に遭わされても、妹のことはかわいいらしい。」
「エルネン様、もしかして王女様に嫉妬しているのでは。……テオール王子と踊りたかったのですか。」
「いや、そうじゃなくて。」
ザワザワと、会場が沸いた。入場したのは、隣国の王子様。カイン王子だ。
「あれ、王女様じゃないですか。」
アルビラ王女はその手を取り、長い階段を無表情で降りる。
「ぎこちないなあ。」
「緊張感があるね。」
王子と魔法使いはクスクスと、その気まずそうな二人を見て笑った。両国の信頼をアピールするためだ。思春期の羞恥心など、邪魔なだけだ。
「あ、リーバンスだ。」
「わ、女の子と来たんだ。」
こちらは仲睦まじく、腕を組んで仲良く降りて行く。
「……エルネン様は、女性をエスコートしたこと、ありますか。」
「婚約破棄された相手なら。」
「……申し訳ございません。」
「謝られる方がつらいんだけど。」
そろそろ、招待客は集まっただろうか。ファーストダンスは、優勝者がすることになっている。
「いいさ。アルビラと、カイン王子に踊ってもらおう。」
王子がつぶやいたその時、会場はスーッと静かになった。皆の視線が、やや遅刻気味に現れた、この国の英雄に注がれる。
第一王子テオールだ。黒の正装姿は、この会場に浮くような存在感を放つ。金のボタンと、黒髪から覗く青い切長の瞳が、夜空の星のようにキラリと光る。
パートナーは、高いヒールに足元をフラつかせていた。テオールは、フッと笑ってその手を取った。
会場から、ホゥ、とため息がもれる。
「間に合ったか。よかったですね、エルネン様。」
「……うん。」
音楽が始まる。
足元を見ながらおそるおそるステップを踏むレディを、第一王子は強引に引き寄せ、リードする。
「まるで、どこかのご令嬢みたいですね。」
「……そうだね。」
息が合うようだ。足を揃えたターンは鮮やかで、クルクルと、皆の目を惹きつける。
「なかなか、お似合いではないですか。」
「……うん。」
何を話していたのだろう。音楽が終わっても、手を取ったまま、笑い合っていた。
「おいアリス、久しぶりだな。エルネン王子、俺を覚えていますか。」
二人は後ろから声をかけられた。カイン王子だ。不機嫌な王女様を持て余したらしい。
「王子殿下、また会えるとは思いませんでしたよ。王女様、今日も美しくてらっしゃる。」
アリストラがうやうやしく礼をすると、アルビラはフンッと、高飛車に鼻を鳴らした。
そうこうしていると、人が集まってくる。
「エルネン、アルビラ。祭事を任せてすまなかったな。」
エルネンの頭を後ろからワシワシと撫でたのは、ダンスを終えた、兄王子のテオールだ。
「カイン王子、お久しぶりですね。必ずまた会えると思っておりましたよ。」
そのまた後ろからヒョコっと顔を出したのは、そのパートナーを務めた今日の主役、リリアーナだった。
「俺もだ。なんだか、別人みたいだな。」
「今日だけですよ。」
照れたように笑う女騎士に、テオールは言った。
「相手がいたなら、言ってくれれば。」
「いいえ、そんな関係ではありませんよ。」
「第二騎士団に入れば、またカイン王子とも会えるだろう。どうだ?」
「それが、第一騎士団に入ると約束して、大会に出たものですから……。」
彼女は黙ったままのエルネンを見て、おそるおそる声をかけた。
「あの、勝手なことをして、申し訳ございませんでした。」
彼女はソッと手を伸ばし、無遠慮に撫でられ、くしゃくしゃになった第二王子の髪を整えた。
「今日の正装姿は、いつにも増して素敵ですね。」
「あ。」
(((いけ、今しかないだろう。)))
王子たちの周りには、挨拶をしたい者や、ダンスの申し込みをしたい者で溢れかえっていたが、皆、その一言を待ってあげていた。
「…………ありがとう。」
(((ああ……。)))
リリアーナは返事が返ってきてホッとしたのか、フフッと笑った。
化粧をしているのか、赤い唇に目が留まる。
ドレスも同じ、深い赤色。肩まである銀髪は、編み込んで片側に流している。
今日の彼女は、美しかった。




