第4話 騎士団長オズワルドは、第二王子が推し。
「第二王子殿下。初めまして、ご挨拶を申し上げます。リリアーナ・バルトと申します。」
「アリストラと申します。」
二人は視線を落とし、跪いた。綺麗な騎士の挨拶だ。
二人があーでもないこーでもないと練習していたことを思いだし、笑いを噛み殺した。
王都に戻ってきたエドワルドは、早速王子様に会わせてあげようと、城の中に連れてきた。
王子はこの後の予定に合わせ、正装を着せられているところだった。袖のボタンをとめ、声をかける。
「顔を上げてください。初めまして。」
二人は同時に顔を上げた。そして、その視線はこの眩しいオーラを放つ王子に、釘付けになったようだった。
エルネン-ハイラル。鮮やかな金のブロンドに、澄んだブルーの大きな瞳。どこか翳りのある表情は、まだ子供らしい顔に合わず、大人びていた。
王子の方は、なぜか二人から視線を逸らしていた。
声変わり中の、少し掠れた少年の声。
「エドワルドから、話は聞いていますが……。」
二人はバッとこちらを向いた。顔だけで、「話が違うぞ」と訴えている。
腕を組んで様子を見守っていたが、首を傾け、険しい顔をしてみせた。子供の困る顔は、おもしろい。
「殿下がおっしゃるなら、無理には。」
少し、意地悪をしてみたくなった。
二人はアタフタと慌て出す。顔を見合わせると、サッと前を向いた。
「私たちのことを信用できないことは、承知しております。しかし今、側における者がいないことも、事実でしょう。」
出会った時の印象と違い、堂々とした様子のリリアーナに感心した。
今の発言は無礼ではなかったかと思えば、アリストラがササっと補足する。
「三年の契約ですが、それを待たずとも、実力があり、信用に足る後任を探します。私たちのことはひとまず、間に合わせの存在だと思ってくれて、構いません。」
こうやって、二人で助け合ってきたのだろう。エルネンにも、そんな存在を見つけて欲しかった。
「そのように思ったわけではなかったのですが。」
フォローをするのは、心優しいこの王子らしかった。断るつもりか、しっかりと正面から向き合った。
対する二人は、膝をついたまま手を組み、祈りを捧げる様なポーズをしていた。
リリアーナは目を閉じて眉間に皺を寄せ、少しでも慈悲の心があるならとかなんとかぶつぶつ呟いている。
アリストラは、瞳をキラキラと潤ませ王子様を見つめていた。
「僕たち、帰る場所がないのです。」
クーンと子犬の鳴き声が聞こえた気がした。
「あははっ」
エルネンが声を上げて笑うのを、久しぶりに見た気がした。笑った顔は、子供らしい。
「ドラゴン討伐の英雄に守られるなど、恐れ多くて。」
王子の輝きを放つかのような儚く美しい笑顔に、二人は一瞬時が止まったかのように見惚れていた。
「恐れ多いなどと、身に余る光栄でございます。」
リリアーナは、澄ました顔に戻り頭を下げた。
「王子殿下の護衛騎士、一生懸命務めさせていただきます。」
アリストラは、元気がいい。シッポを振るのが見える様だ。
「誕生日プレゼントを気に入っていただけた様で、何よりです。殿下、堅苦しい言葉づかいは不要ですよ。長い付き合いになりますから、気楽にした方がいい。」
こうなることは、お見通しだった。王子は押しに弱いし、それに。
エルネンの方が、この二人を探していたのだ。あれは、一年ほど前だったか。そして、何かに怖気付いたように捜索をやめた。
急に現れた探し人に、王子の碧眼は動揺で微かに揺らいでいた。
「王子様は、この後パーティがあるから、君たちは別の者に案内させるよ。」
さあ解散させようと扉に手をかけると、アリストラがキラキラした目を、今度はこちらに向けた。
「王子殿下の晴れの姿を見れず、残念です。」
リリアーナは、ガックリうなだれている。お前も行きたかったのか。
二人とも、一目会っただけでエルネンを気に入ったようだった。
「エドワルド、二人を連れて、会場の警備をお願いします。」
アリストラとリリアーナは、パアッと表情を輝かせた。王子も、二人を気に入ったのかもしれなかった。
ふと、思い出した。それは偶然だったのだが。
「そういえば君たち、殿下と同い年なんだよ。」
この晩は、エルネンの十五歳の誕生日パーティーだった。




