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ドラゴンを斬った女の初恋  作者: 9iyus
第四章 青春と剣
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第5話 その騎士は、少し照れ屋

 カイン王子は、その漆黒の冑を脱いだ。


 北国で雪焼けした、健康的な赤黒い肌。黒髪から覗く、光を放つかのように明るい、黄色の瞳。


 半分に折れた剣をジッと眺めた後、白い歯を見せ、笑って言った。


「誘い込まれたのは、俺の方だったのか。……完敗だよ。」


 対する騎士は、膝に手をつき、息も絶え絶え。やっと一言、絞り出した。


「…………どうも。」


 隣国の王子様は、大会の剣が脆く作られていることなど、知らなかっただろう。


 しかし、それも作戦だ。


 騎士は、鎧の重さにすら負けそうになりながら、ヨロヨロ、二、三歩フラついた。


「おい、大丈夫か。」


 敗者の王子は、心配そうに騎士に駆け寄った。


***


 エルネンは、その様子を見て言った。


「このまま決勝戦は、あの騎士に不利じゃないか。」


 テオールには優勝して欲しい。この大会、この祭を、第一王子の存在感を示すものとして準備してきた。


 しかしそれは、公平な勝負のもとでこそ光る。


 それが聞こえる距離ではなかったが、騎士は駆け寄るカイン王子とこちらを、手で制した。どうやら、このままやるつもりらしい。


——カツン、カツン。カツン。


「舐められたものだな。」


 第一王子テオールは、兜を片手に、後ろから現れた。


 騎士のそれは、問題ないという意味か、遠慮をしたのかははわからなかったが、兄は、休むまでもないという挑発ととったようだ。


 浮かべた笑みは、なんだか嬉しそうだ。


「お気をつけて。」


「ご武運を。」


 僕とアルビラは、短く声をかけて見送った。戦争に送り出したあの時と、同じように。


 周りにいた騎士達も、応援の声をかけた。テオールはそれを、後ろに手を振って応えた。


 吹き込む風に、赤いマントが靡く——


 闘場に現れた英雄を、大きな歓声が包んだ。


「今年もきっと、お兄様の優勝ね。」


 妹は言った。風貌が似ているせいで、双子と称される僕たちだ。きっと、同じことを思っているに違いない。


 不遇の王子は勝利を手にし、この国の王となるだろう。


 それは、予感か、神の啓示か。彼を中心に、この世界が回っている感覚。


 既に血に塗れた王位継承戦だ。この先は、兄を王とするため僕は犠牲となり、妹は戦いに敗れるだろう。


「本当に、似ていますね。」


 アリストラが、唐突に呟いた。それは、言われ慣れていることだったから。


「……それは。」


「エルネン様と王女様もそうですけど、テオール王子とも。やっぱり、血が繋がっているんだなあ。」


 失礼でしたか?と、おそるおそる聞かれる。


「……いいや。」


——ドォォォン、ドォォォン


 今日、最後のドラが、闘技場に響いた。


 剣を構える王子と、騎士は、未だ呼吸を整えているように見える。


 アルビラは、どうしてかしらね。と、呟いた。わがままで、自分勝手な姫様だ。困ったように笑う表情は、彼女には、似合わない。


「私ね、お兄様を応援しているの。」


 この道の先が、破滅だと分かっていても、進まざるを得ない。たとえ、自分が悪役でも。


 にも関わらず、主役を応援したくなる——


(それは、血が繋がっているからだろうか?)


——キィィン、キィン。


 初めの攻撃を、テオールはいとも容易くはじき返した。タジタジと、騎士は押されていく。


 アリストラは、それを見て言った。


「かっこいいですね、テオール王子。」


「……そうだろう。自慢の兄だから。」


「お兄様は、世界一かっこいいのよ。」


 性悪な妹と意見が合うことなど、滅多にない。しかし、確かに繋がっている感覚。血の繋がりではなくて。


 この物語に、王子テオールの物語に、引き動かされている感覚。


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