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ドラゴンを斬った女の初恋  作者: 9iyus
第四章 青春と剣
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第3話 第二王子エルネンは、神聖な大会で賭けをしたい

 第二王子エルネンは、温かい風を受け、目を細めた。


「人からあんなふうに言われたのは、初めてだったから。」

 

 表現し難い感情だった。それを、まるで理解したかのようにエドワルドは言った。


「友人の母親というものは、そういうものなのです。」


 我が子には厳しく、その友人のことは優しく見守ってくれるのだという。


 アリストラは首を捻り、うーんと唸った。


「ステラが俺の母親役ってことですか。魔女ですからね、エルネン様。騙されないで。」


 闘技場は、揺れるような熱気に包まれている。僕の呟いた言葉は、観客たちの歓声でかき消された。


「そうか。やさしい母親がいたら、あんな感じなのかと思って。」


——あああああああ


 両隣から聞こえる絶叫。二人は頭を抱えていた。


「……リーバンス、正面からやられるなんて。」


「ウチの騎士団は、残り一人か……。」


 闘場の中心にいるのは、倒れる騎士と、それに手を差し伸べる騎士。


 剣術大会は準決勝を前にして、盛り上がりはピークを迎えていた。


 敗者の出口だ。第一騎士団長エドワルドは、僕の席をここに用意した。それから、アリストラと三人で、大会の行方を眺めていた。


「ここが一番見やすいですからね。」


「エドワルド。僕は、居心地が悪いよ。」


 敗戦の戦士たちが、傷を庇いながら歩いてくる。王子に挨拶をしないわけにはいかなかった。


「不甲斐ないです。負けてしまって。」


 次に来たのは、リーバンスだった。ガチャガチャと鎧を鳴らし、冑を脇に抱え、片足を痛ましく引きずっていた。


 その友人と騎士団長は、彼を温かく迎えた。


「情けないぞ、リーバンス。」


「大丈夫だ、誰もお前には期待してない。」


 追い討ちをかけるような言葉に、若い騎士はズルズルと座り込んだ。


「……いや、見事だったよ。」


「……やさしいのは、王子様だけです。あれ、リリアーナは。」


 アリストラが、やれやれと首を振って答えた。


「なんだよ、あいつに情けない姿を見られたかったのか?」


「いいや。それが、王子様に会ったんだよ。」


「王子様?」


 その時、闘技場は割れんばかりの歓声に包まれた。


 現れたのは、北国の王子様だ。明るい太陽の真下。その影のように濃い黒の甲冑、この暑さに合わない白い毛のマント。


「……あれは、トラッド王国のカイン王子か。」


 この大会に出場しているとは、知らなかった。


 此度、北の国境を守ったのは、第一王子テオールと、それに手を貸した隣国の王子だった。


 二年前、この国の騎士団と共に、ドラゴンを討伐した英雄でもあった。


 エドワルドは、しれっと言った。


「あれ、エルネン王子知らなかったのですか。下馬評では、なかなかの人気で。」


(下馬評って……。)


「団長。まさか、僕たちで賭けをしているのですか。この神聖な大会で。」


 リーバンスは、信じられないと目を丸くしている。


「いや、お前には賭けてないよ。ちなみに、一番人気はテオール王子だ。」


「しかも自分の騎士団じゃないし。騎士の風上にも置けないなこの人。」


 アリストラは興味があるのか、嬉しそうに会話に入る。


「それは、面白そうですね。俺たちも乗りましょう、エルネン様。俺の師匠は、賭け事が好きで——」


 その台詞は、聞き覚えがあったが。


「賭け事も、修行の内だとよくおっしゃいました。物事を見極める力が高まるのだそうですよ。」


 ウンウンと頷きながら言った。彼は、リリアーナと違って師匠を尊敬しているらしい。


 その姿に、思わずハハッと吹き出した。


「いいね。負けた方が、勝者のいうことを一つ聞くというのはどう?」


(弟子たちには愛されているようだけど、一体どこにいるのだろう?)


 その名は、オリビア・バインドラといった。ステラの後継者であり、血の繋がった実の娘であるという。


 数年前から行方不明だった。どうやらこの国にいるようだから、見つけ出してくれないかというのが、最強の魔女からの頼み事であった。


 歓声はだんだんと止み、静寂が耳を突いた。


 闘場は、黒い鎧の王子と、騎士が対峙している。


 アリストラはその静けさに、ポンッと質問を放り投げた。


「エルネン様は、テオール王子に賭けるのですか。」


「それはもちろん。兄よりも強い剣士には、会ったことがないよ。」


 実力だけがその身を守った。王候補の生き残りだ。


「そうですか。俺も、カイン王子よりも優れた剣士には会ったことがありません。……ドラゴンを斬った男ですからね。」


 騎士は、早々、走り出した。対する黒い鎧の王子は、ゆっくりと剣を構えた。


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