第2話 魔法使いアリストラは、思春期だ
その魔女は、うやうやしくお辞儀をした。
青空に似合わない、黒のローブに身を包む長身。身につける宝石が、その中で光る。白髪の混ざる癖のある赤髪、鋭い眼光。
「不出来な弟子たちが、世話になっております。王子様。」
「誰が不出来な弟子ですか。」
アリストラは、すぐに言葉を返した。
エルネンがいえいえと頭を下げるのも、なんだか気恥ずかしい。
「「「アリス、元気だった?」」」
魔女は、三人の弟子を連れてきていた。幼い少女たちが飛びついてくる。
「チビたちも、いい子にしてたか。」
「「「まあまあだね。」」」
生意気な後輩たちは、久々に会う自分より、キラキラした王子様に視線が釘付けだ。
「赤い瞳……。子うさぎみたいだ。」
「かわいいでしょう。性格は凶暴ですよ。」
王子様には、猫を被るかもしれないが。
昼下がり、城門の前だ。凱旋が終わった後のことだった。
人混みの中にステラの姿を見つけた俺は、いったい何のつもりかと城を降りた。エルネンには、本当は付いて来て欲しくなかったのだが……。
「ステラ、何の様でいらっしゃったのですか。」
人々は町に戻り、祭りの最中だろう。ここには、喧騒の気配だけが残る。
「何って、あんたたちの様子を見に来たのよ。」
「は?」
「リリアーナは、どうしたの。」
「あいつは、罰で謹慎中です。」
「は?」
会話が止まり、お互いに不思議そうな顔で見つめ合う俺たちを、少女たちはケラケラと笑う。
「ステラが、心配だから見に行こうって。」「お祭りも見せてくれるからって。」「だから、ついて来たんだよ。」
魔女は、眉間の皺をさすりながら言った。
「心配は、的中したようですね。何をしでかしたのかわかりませんが、ご迷惑をかけているようで。」
エルネンはまた、いえいえと答えた。
「僕の不手際で、不名誉な思いをさせてしまったのです。」
「そんなこと……。」
思わず呟いた。昨日、第五騎士団長に叱られたことを、まだ気にしているのではないか。
魔女は、年相応の掠れ声だ。その風格ある声で、正しく、しかし優しく言った。
「王子様、この子たちに不名誉なことなどありませんよ。あなた様に仕えることが、素晴らしい名誉なのですから。」
フフッと笑うその最恐の魔女を、王子は意外そうに見上げている。
「謙虚さを覚えるには、まだ若すぎます。もっと、ワガママにならないと。」
うんうんと聞いていると、頭を引っ叩かれた。
「あんたたちはもっと謙虚になりなさい。責任感というものを知らないのかしら。」
まったく、とため息を吐かれた。久々の感覚に頭をさすった。魔女のくせに、暴力とは。
「用は、それだけですか。」
へばりついている子うさぎを下ろした。そろそろ行かないと。エルネン王子は、忙しいのだ。
「……いいえ。あんたたちに頼みがあったのだけど、三人だけで話せるかしら。」
それは、傭兵団の仕事だろうか。三人とは、リリアーナと俺に伝えたいことがあるのだろう。
無意識に、生唾を飲み込んだ。
王妃に手を貸している魔法使いが、まだわからなかったからだ。
風が止んで、静けさがその場の空気を固める。
子うさぎたちは、俺の不安を感じ取ったようだ。ジッと静かに、その空気が動くのを待っている。
(……どうしよう。その時は、本当にステラと戦うのか。)
固まってしまった弟子魔法使いを待たず、エルネンは、魔女をまっすぐに見据え、静かに沈黙を破った。
「……ステラ。二人は今は、僕の護衛です。お貸しすることはできません。」
背中にツゥ——と、汗が流れる感覚がした。呼吸が浅くなる。王子は、どこまで知っているんだろうか。
バサバサバサッと一羽、近くで鳥が飛び去った。
一気に変わった空気に、ステラは首を傾げた。
「いや、大した話じゃなくて……。オリビアが、どうやらこの国にいるようなのよ。」




