第11話 騎士団長エドワルドは、若かりし日を思い出す
読んでいただきありがとうございます。三章、最終話です。
第一騎士団長のエドワルドは、小さくため息をついた。
「今、ため息をついたのか。」
「いいえ。」
「嘘をつくな。大体お前は——」
目の前で私たちを怒鳴り散らしているのは、第五騎士団団長のブルーだ。深い皺と、傷のある顔。熊のように大きく、逞しい体は年齢を感じさせない。
「申し訳ございませんでした。」
隣で深々と頭を下げ続けるのは、銀髪の女剣士だ。私はリリアーナと二人、城の応接室でこの男に長々と説教をされていた。
(開会式は、無事に始まっただろうか。エルネン王子の挨拶を、見そびれてしまったなあ。)
窓の外を眺めた。天気が良く、祭り日和だ。なんだか、無性に腹が立ってきた。
「騒動を、第五騎士団で早急に片付けられなかった方が問題ではないのですか。王子たちに手を借りておいて、なにをこちらが謝罪することが。」
「何だと。」
第二王子とその護衛は、祭りに乱入した敵国兵士を制するのに、一役買ったらしい。なんでそんなとこにいたのかは、一旦置いておいて。
「騎士団の手柄を取られて、逆恨みしているのではないのですか。」
ブルーは、今にも掴みかかってきそうだった。その時、部屋の扉が開き、エルネンが勢いよく入ってきた。
「何をしているんだ。僕の護衛が、謝罪することなどあったか。」
「エルネン様、どうか落ち着いて。」
アリストラが、慌てて王子を追って入ってきた。
「エルネン王子。謝罪もなにも、護衛するべき貴方様の命を危険に晒して。この者を、まだそばに置くつもりですか。」
第五騎士団の団長は、威圧感があって、声がでかい。若者二人は、いきなり気圧されている。
魔法使いはその迫力に、完全に戦意を喪失したようだが、王子はグッと耐えて答えた。
「……町に来たことも、兵士と戦ったことも、全部僕がたのんだことだ。余計なことを。」
「いいえ、私が軽薄だったのです。反省しております。」
女剣士は、それを遮るように言葉を発した。
(あ、そうだった。)
私は、アリストラとリリアーナから、ことを穏便に済ませるよう頼まれていたことを思い出した。
「この子は反省しています。今回は、見逃してくれませんか。」
二人の護衛は昨日の晩、町の警備をする騎士たちに、迷惑をかけてしまったのだと私に言った。
自分たちに信用がないことを自覚し、王子に迷惑をかけないよう、しおらしく謝罪で場を収めることに決めたのだろう。
(賢い子達だ。)
しかし、ブルーの勢いは止まらない。
「前の護衛騎士も、元傭兵ではなかったですか。また、裏切られるとも知れませんよ。」
その瞬間、その場にピリッと殺気を感じた。
この場にエルネンが来ることは想定外だったようだ。主君を責められると、黙っていられないらしい。
リリアーナはずっと下げ続けていた頭を上げ、ブルーを見た。
「私が、エルネン王子を裏切るようなことは、決してありません。」
「そうか、その言葉を忘れるなよ。」
(——来た。)
ブルーは、大きな拳で彼女の頬を思いっきり殴った。すごい力だ。リリアーナは、衝撃で後ろに吹っ飛んでいった。
騎士団名物、愛の鉄拳だ。王国の騎士たちは、この拳を受けながら強くなるのだ。
「リリー。」
エルネンが驚いて駆け寄ろうとするのを、アリストラがグッと腕を掴んで引き留める。
「王子、あなたも自覚が足りませんよ。もう、子供ではないのですから、責任を持った行動をしてくださらないと。」
ブルーはクルッとこちら側を向いて言った。その後ろでリリアーナはムクっと起き上がり、ベッと舌を出した。
「お前も、わかったか。」
騎士団長がクルッと後ろに向き直ると、銀髪は急いで頭を下げた。
——コン、コン。
ノックの音。助け舟だ。第五騎士団の副団長が、ブルーを呼びにきたらしい。
「まったく。」
大男はドスドスと、部屋を出て行った。その間際、フッと笑ったのを見逃さなかった。
(愛が、重いんだよなあ。)
若い頃に、自分も殴られたことを思い出した。
扉が閉まると、猫をかぶっていた護衛二人は、早速ケラケラと笑い出した。
「すごいな。お前、頬に拳の跡がついてるぞ。」
「馬に撥ねられたかと思ったよ。歯がグラグラする。」
リリアーナの口の中を、二人が覗き込んでいる。
「ずっと下を向いて笑いを堪えていただろう。昔からそうだ。エルネン様なんか、怖くて震えていたんだぞ。」
「怒られると、笑ってしまうんだよ。エルネン様、怖かったのに、私を庇ってくれたのですか。」
剣士は嬉しそうに言った。ブルーは、燃えるような赤髪の騎士だった。
「リリーの為なら、赤髪の騎士も克服できそうだよ。だから、今度は二人で解決しようとしないで。」
エルネンは青い顔をして冷や汗をかいていたが、二人はそれには触れず、無邪気に言った。
「こいつの銀髪が目立ったのでしょう。今度は、俺と行きましょうね。」
「次は、もっと上手くやってみせますから。」
二人は、まったく反省していなかった。
(やれやれ。それにしても。)
「あの鉄拳をくらって気を失わない奴なんて、初めて見たよ。」
「平気なフリをしているだけです。目の前に星が飛びましたよ。団長、今日は、ありがとうございました。」
「リリアーナ・バルト。君には、一つ貸しができたね。」
「え。」
銀髪から覗く淡い紫色の瞳が、不安を写して、ユラユラと揺れた。
読んでいただきありがとうございました。まだ続きますので、よければ続きもお願いいたします。




