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ドラゴンを斬った女の初恋  作者: 9iyus
第三章 記憶と絆
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第9話 銀髪の女剣士リリアーナは、王子様にお礼を言いたい

(お礼、言いそびれちゃったなあ……)


 リリアーナはソッと髪に差し込まれた花を触った。


 王子とその護衛の剣士は、狭い路地の隙間に挟まるように、密着して隠れていた。


 二人は、反対側の通りの様子を伺う。


「あれは、北部の。」


 エルネンはあの角張った兜に見覚えがあるらしく、ボソッと呟いた。


 この国のものではない兵士が十数人ほど、馬に乗ったまま大通りに雪崩れ込んでくる。


「お兄様が、帰ってきたようですね。」


 後ろから、第二騎士団の騎兵が追いかけてくる。町民は逃げ回り、露店は馬に潰され、祭りはめちゃくちゃだ。


(残党をここまで追い込んだのか、捕虜を逃してここまできたのかわからないが……。)


「大した規模ではありません。少し早いけど、城に戻りましょう。」


 剣の交わる音も聞こえてきた。今に、町を警備する第五騎士団も合流し、対処するだろう。


 巻き込まれると、面倒だ。


「お願いがあるんだけど。」


「賭けはまだしていませんよ。」


 エルネンは、サワサワと私の背中を触っている。何を言い出すのかわかった。


「アリスに、騒ぎは起こさないと約束したのです。」

 

「じゃあ、先に帰っていていいから。」


「貴方様を置いて帰れるわけがないでしょう。」


 しぶしぶ、背中に隠していた剣をゴソゴソと抜いた。この通りにも、三騎の騎兵が侵入してきた。


「ここを、動かないでくださいね。」


 兵士が向かう先には、出店が並ぶ。隣の大通りはめちゃくちゃになったが、広場の方は、第五騎士団が何とかしたはずだ。


「ここを抑えれば、二本の大通りで、まだ祭りができる。あと、五日間もあるからね。」


 エルネンは言いながら、今度はスカートの中に手を入れ、ガサゴソと何かを探している。


 私を抱えて城を降りた時に、気がついていたのだろう。


「エルネン様のエッチ。」


 思わずため息を吐いた。確かに、一人では足止めできないかもしれない。


 王子は、護衛の足に固定されていた短剣を掴んだ。


カカコッ、カカコッ——


 馬の蹄の音が、だんだん近づいてくる。


 長剣の方を、王子に渡した。自分は、短剣の鞘を抜いてタイミングを待つ。


「先に、賭けをしておくべきでした。」


「リリーが勝つとは、限らないだろう。」


「アヒルは、羽が切ってあるものと、そうでないものがいたのですよ。」


「そうなの?」


(——今だ。)


 路地の横に積んであった空の樽を、思いきり蹴り飛ばした。


ガココンッ、ガゴガゴガゴッ——


 かなりの速度で走ってきた騎兵の馬は、突然現れた障害物に足を取られる。


 二頭は転倒し、一人の兵士は下敷きに、一人は受け身を取って着地した。


 王子は路地から飛び出し、着地をした方の兵士に、横から思い切り剣を振る。


カァンッ——


 相手はなんとか受けたが、エルネンは相手の剣を弾き飛ばした。間髪入れずに、二撃目を構える。


 その上を、最後の一頭が飛び越えていった。


 それを追って、走る。


(あまり遠くまで行かないで——)


 馬には追いつけないが、手に持っていた短剣を思いっきり馬の尻に投げつけ、それは刺さった。


 馬は鳴き声を上げ、バランスを崩し、横にある店に突っ込んでいった。花屋だ。


 急げ、急げ、息が上がる——


 その場所まで追いつくと、ガタガタと音がして、男が肩を抑え、よろよろと道に出てきた。


 植木か水差しに突っ込んだのか、ずぶ濡れで、色とりどりの花をくっつけている。


 濡れた髪をかき上げた兵士と、目が合った。碧眼だ。色っぽい。


「違うところで会いたかったなあ。せっかくオシャレをしてきたのに。」


 手元には、短剣の鞘しかない。上がった息を何とか整え、それをグッと握りしめた。


(早く片付けて、エルネン様のところに戻らないと。)


 なかなか勘がいいらしい。兵士は、町娘風の私に、容赦なく斬りかかってきた。


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