第7話 銀髪の女剣士リリアーナは、初めての祭りを楽しみたい
「リリーは、よく食べるねえ。」
「……エルネン様に、身長が追いつかれそうなので。」
リリアーナは口の端を舐めた。甘ったるくて、菓子屋に行く気が失せてきた。
二人は露店で寄り道をしながら、ゆっくりと目的地に向かっていた。
「僕は、小さい方がいいの?」
「……張り合う相手がいた方が、いいかと思って。」
適当に返事を返して先へ進む。その店は閉まっていたが、前に屋台が出ていた。
オレンジに、チョコレートがかかったものが並んでいる。
(あれ?)
「……逆では?」
エルネンが、屋台を覗き込んだ。
「そういえば、ここの店主はさっきの果物屋の店主と兄弟で。だから、果物の味をしたチョコレートが売りなのだと……。」
ヌッと屋台の奥から、イチゴの刺さった棒を二本差し出される。それには、白いチョコレートがかかっていた。
「そうです、お嬢さん。こちらは新作です。どうぞ。」
人の良さそうな店主だ。大柄で、菓子屋よりは、酒屋のほうが似合いそうだ。
大きな身を縮めて、コソッと言った。
「エルネン王子様、お久しぶりですね。少し見ないうちに、ずいぶん大きくなって。」
チラッと私の方を見て言った。
「いつもの騎士様は、いらしてないのですか。」
それは、イリヤ・エリオールのことだろうか。
「彼女は騎士団を移ったから、もう王都にはいないんだ。」
「そうですか。もし会いしましたら、またお立ち寄りくださいと伝えていただけますか。」
「うん。わかったよ。」
エルネンは、答え慣れているのかスラスラと嘘をついた。
いつもの、大人びた笑顔だ。相変わらず、美しくて。それが、晴れ渡る青空に似合わなくて——
その口に、イチゴの刺さった棒を突っ込んだ。
「私が後任の騎士なのです。チョコレート、また買いに来てもいいですか。」
店主は、笑顔で言った。
「もちろんです。また、二人でいらしてくださいね。」
(はああああ……。)
気持ちを切り替えたくて、大きくため息を吐いた。
王子は川沿いに露店が並ぶ、もう一本奥の通りに案内してくれた。
ご機嫌だ。ケラケラと、ずっと笑っている。
「あの店主、驚いていたよ。君が騎士には見えなかったんだろうね。」
それだ。私にはこだわりがあって。
「ああ……。騎士って言ってしまった。私は騎士ではないのに。」
「そんなことが、重要なのかい。」
「騎士の方が、格好良くはないですか。やっぱり、騎士の位を貰い受けるべきだった。」
「そのことを気にしているとは、知らなかったよ。」
「私がイリヤ・エリオールに劣っているのは、それと、身長だから。」
(……しまった。)
必死に冷静を装った。川が光を受けて、いつもより輝いて見えた。
「……大きい女性の方が、好まれるかと思って。一般的に。」
「一般的に。」
俯いて、王子の隣を歩いた。足元で揺れるワンピースの裾を見て、余計に恥ずかしくなった。
(何をやっているんだ私は……。)
「……チョコレートは、いかがでしたか。」
エルネンは笑った。爽やかな青空に、無邪気な笑顔がよく似合う。
「実は、苦味のある味は苦手なんだ。」
「オレンジの方ですか。思い出の味なのに。」
「こっちの方が、好きかもしれない。」
「イチゴか。酸っぱいのは苦手です。」
「甘酸っぱいって言うんだよ。」
私には、どちらも大人な味に感じた。
「口直しにしましょう。」
「リリーは、よく食べるねえ。」
それは、貴方様の思い出の女を、超えたいからだ。




