第3話 若き魔法使いアリストラは、最近お茶に凝っていた。
3話目です。またお読みいただき、ありがとうございます。
五人の子供たちをやっと寝かしつけた後、応接室に呼ばれた。夜も更けた。長い話し合いだったようだ。
騎士が来たということは、この城の主人であるステラの傭兵団が目当てだろう。
エプロンはつけたまま、三人分のお茶を盆に乗せ、そっと部屋に入った。二人の騎士は席を立ち、こちらを向いた。
お茶のおかわりか、片付け程度の用事だろうと思っていたので、視線が集まり動きが止まる。
「あ、こんばんは。」
すると、その奥からティーカップが飛んできた。
「ノックくらいしな!」
片付けるのは自分だ。空いている方の手で、ティーカップを受け止めた。
それと同時に後ろからノックが聞こえ、扉が開いた。
「あんたは来るのが遅い!」
今度は灰皿が飛んできた。両腕が塞がっていたので身を避けると、パシッという音が後ろで聞こえた。彼女も、無事キャッチできたようだ。
虫のいどころが悪いのかもしれない。仕事の契約が不満なのだろうか。
この理不尽で、横暴で、暴力的な我が主人。ステラ・バインドラは、自分だけソファに深く腰掛けたまま、葉巻に火をつけ、煙を上に吐き出した。
胸元まである赤い、癖のついた髪と、首や指にジャラジャラと付けた宝石。深い眉間の皺が、その雰囲気をさらに強くしていた。
「話はまとまったわ。挨拶なさい。」
なんの話だったのだろう。僕らは横に並んで顔を見合わせた。
「お嬢様とは初めましてですね。私は、王国第一騎士団団長のエドワルド・ヴィンステッドです。これからよろしく。」
騎士団の団長にしては若く見えた。実力者なのだろうが、騎士にしては細身だ。タレ目気味で爽やかな笑顔は、騎士というよりは貴公子のようだった。
「二人とも、またよろしくお願いします。」
クレマチスも、二年で成長したようだった。ドラゴンの討伐に一緒に同行した時より一回り、横にも縦にも大きくなった。逞しい体と口元にある消えない傷は、騎士としての魅力を放っていた。
「アリストラと申します。アリスと呼んでください。」
ぺこっと頭を下げると、両手に持ったティーセットがカチャカチャと音を立てた。
「リリアーナ・バルトと申します。」
横にいる人見知りな彼女は、手に持った灰皿を見つめながら、俯きがちに名乗った。目にかかる銀髪で、表情は見えない。
「じゃあ、明日の朝までに荷物をまとめておきなさい。見送りはしないから、好きな馬に乗って行っていいわ。」
ステラは、もう用はないと手をひらひらとこちらに振る。
きょとんとする僕らに、エドワルドは苦笑いをしながら声をかけた。
「君たちには、これから王城で生活してもらうよ。」
僕らはまた、顔を見合わせた。
お読みいただきありがとうございます。次回は、王子様との出会いです。




