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ドラゴンを斬った女の初恋  作者: 9iyus
第三章 記憶と絆
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第6話 第二王子エルネンは、初めての祭りを楽しみたい

***


 この国が建国されたのは百年前。争いの絶えない五つの国を、二人の兄弟が統一したのだ。


 弟は、ドラゴンを倒し授かったその力を、このハイラル王国ために捧げた。


「私は、もう戦えないよ。」


「いいえ。私が、貴方様の右目となりましょう。」


 自分を犠牲にした弟王子を、その騎士は最期まで支えたという。


 王子たちの兄弟愛と、その騎士の一途な忠誠心。


 語り継がれる、美しい建国話——


***


「リリー。もしかして泣いているの?」


「泣いてないですけど。」


 僕の頼もしい女騎士は、意外と涙脆いらしい。大きなリンゴあめを口に咥えたまま、目を潤ませている。


 町はいつもより賑やかで、騒がしい。


 城を抜け出したエルネンとリリアーナは、城下町の祭りを堪能していた。


(人形劇で泣いてしまうなんて…。)


「可愛らしいなあ。」


「え?」


「初めて聞いたのかい?」


「いいえ。確か、どこかで…。」


 思い出そうとしているのか、頭を傾げた。鼻を啜る彼女を、周りにいたちびっ子たちが、心配そうに見上げている。


 一人の少年が、かごから一輪の花を差し出した。


「あー。」


 リリアーナは、困ったように頭を掻いた。


「それは、僕がもらおう。」


「エルネン様、こういうのは一度買うとキリがないのですよ。」


「今、君にあげたいんだよ。」


 金の硬貨を差し出すと、少年は嬉しそうにそれを握りしめ、かごを放り投げ駆けていった。


 黄色の花々が、その場に舞って——


 一つ、キャッチした。それを差し出す。


「ほら、泣かないで。」


 周りからの視線を感じる。ザワザワと、人が集まってくる。リリアーナは僕の顔をボーッと見ていたが、ハッと気がつきブルブルと首を横に振った。


「そのボロボロのローブも、王子様のオーラは隠せないようですね。」


「あ、まずいね。」


 彼女の手を取って、足早にその通りを抜けた。


(酒屋と茶屋の間を、まっすぐに進んで……。)


 軽やかな太鼓のリズムと、低めに重なる和音。上がった息が、それにつられる。


 広場に出た。


 弦楽器のバンドを中心にして、酒を振る舞っているらしい。陽気な人々で、溢れかえっていた。


 それに紛れ、並んでベンチに腰掛けた。フードを改めて深く被される。


 日差しが遮られて、汗が冷たく気持ちいい。


「紋様の入った金貨を出すとは。」


「ごめんよ。」


 彼女はフーっと息を整え、町の女性たちが輪になって踊るのを、ボンヤリ眺めている。


「……町に、詳しいのですね。」


 この三つの大きな通りは、それぞれ広場につながる近道があるのだ。


「……よく城を抜け出して、連れてきてもらったんだ。君たちの前任者は、不真面目な人だったから。」


 なぜだろう。今日は、大丈夫だ。

 

 幻覚もなければ、手の震えもない。それは、いいことなのだろうか。僕にはまだ、決められない。


「毎日剣術の稽古をつけてくれるはずだったんだけど。一緒に町へ出たり、森で昼寝をしたり。」


 さすがに、祭りの日に来たことはなかった。こうやって、思い出を上書きしていくということなのだろうか。


「そのような関係だとは、知りませんでした。」


 リリアーナは、少し困ったような顔をしていた。


 その後ろ。噴水の向こうに、赤茶の看板が目に入った。


「あそこの菓子屋、チョコレートが美味しいんだ。オレンジの風味がするんだけど。そういえば、あれから食べてないな。」


 オレンジの皮が入っているのだろう。ほろ苦いチョコを好む“彼女”が、その時は大人に感じた。


(そういえば、出会った頃のイリヤと同じ歳になったな。)


「エルネン様、金貨しか持っていないのでしょう。今日は、私からプレゼントさせてください。」


 王子は護衛騎士に手を引かれ、その菓子屋に向かって歩いた。


『王子殿下、チョコは好きですか。』


 “彼女”からもらったその味を、思い出していた。


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