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ドラゴンを斬った女の初恋  作者: 9iyus
第三章 記憶と絆
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第4話 第二王子エルネンは、町の祭りが気になる

 眠たい。


 第二王子エルネンは、グッと体を伸ばし欠伸をした。二人の護衛にも移ったのか、クァーっと、後に続いた。


 建国祭の前日になった。


 忙しい日々を過ごしていたが、準備ももう終わり、エルネンはこの日、午後からポッカリとやることがなかった。


「城下町では、今日からお祭りのようですよ。」  

 

 魔法使いは空気を入れ替えようと、執務室の窓を開けてくれた。外を眺めている。


「前夜祭か。アリスとリリーは、行ったことあるの?」


 町は飾り付けられ、屋台が並び、夜には花火が上がる。


「俺たちは、ないですね。エルネン様は?」


「僕も、町の方はないなあ。」


 手元にある羽ペンをクルクル回した。三人だけの執務室は、緊張感がない。それが、心地良くて、眠気を誘う。


「リリー。おーい。」


 アリストラが、返事のない女剣士の顔の前でヒラヒラと手を振っている。


 リリアーナは、隠し事ができないタイプのようだった。


 ここ数日、心ここに在らずという感じで、たまにため息をついては、何かを考え込んでいた。


(気づかないフリをしなくては……。)


「二人とも。僕は今日もうどこにも行かないから、町を見てきてくれないかい。祭りの様子が気になるんだ。」


 それは、彼女の気分転換になればと思い、言ったのだが。


「エルネン様を一人にするわけがないでしょう。」


 アリストラはニヤッと笑い、リリアーナはハッと気がついたように言った。


「ジャンケンだね。」


 相変わらず、息ぴったりだ。それにフッと口元が緩む。


 窓から吹き込む温かい風も心地良く、欠伸を噛み殺した。大きすぎる机に頬杖をつく。


(どっちが行くのか、決めるのかな?)


「「ジャンケン——」」


 言い終わる前に、魔法使いはパーを出す。

  

——キィィィン


 リリアーナの手元に赤い魔法陣が現れ、彼女の手は握ったまま固まった。


 アリストラの魔法陣だ。


 彼女はニヤつく卑怯者をキッと睨んだ後、動く方の手で腰にある剣を鞘から少し抜いた。


——バチバチバチバチ


 すると、覗いた剣身が音を立てて、青色に光る。


——ブゥゥゥン


 途端に、執務室床全体に青色に光る魔法陣が現れた。


「なっ。」


 床から風を感じる。壁にかかる肖像画はガタガタ揺れ、机の書類はバサバサと舞った。


——パキィィ


 アリストラの魔法陣は、粉々に砕け散った。


(……魔法禁止の魔法陣だ。)


 パッと床の魔法陣は消えた。それと同時に、剣士はガタッと膝から崩れ落ちる。


 咄嗟に身を庇う魔法使いに向かって、リリアーナは床に這いつくばったままピースを掲げた。


「……リリーが魔法を使うところは、初めて見たよ。」


 眠気は吹っ飛んだ。彼女は、魔法が使えないと聞いていたのに——


「俺も、久々に見ました。」


 驚いているのは自分だけではなかった。その相棒も、呆然としている。


 リリアーナは、片膝をついて顔を上げた。瞳から赤い血が流れ、頬を伝う。


「リリー、大丈夫……。」


 急いで駆け寄ろうとすると、それを彼女は手で制して立ち上がった。


「では、後ほど。」

 

 目から鼻から流れる血をグイッと抑え、そのまま部屋を出ていった。


「……そんなに、祭りに行きたかったのかな。」


 聞きたいことはいろいろあったが、口から出てきたのはどうでもいい言葉だった。


「今の、後出しでしたよね?」


 アリストラは、俺の魔法陣は破られてばかりだと肩を落とした。


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