第4話 第二王子エルネンは、町の祭りが気になる
眠たい。
第二王子エルネンは、グッと体を伸ばし欠伸をした。二人の護衛にも移ったのか、クァーっと、後に続いた。
建国祭の前日になった。
忙しい日々を過ごしていたが、準備ももう終わり、エルネンはこの日、午後からポッカリとやることがなかった。
「城下町では、今日からお祭りのようですよ。」
魔法使いは空気を入れ替えようと、執務室の窓を開けてくれた。外を眺めている。
「前夜祭か。アリスとリリーは、行ったことあるの?」
町は飾り付けられ、屋台が並び、夜には花火が上がる。
「俺たちは、ないですね。エルネン様は?」
「僕も、町の方はないなあ。」
手元にある羽ペンをクルクル回した。三人だけの執務室は、緊張感がない。それが、心地良くて、眠気を誘う。
「リリー。おーい。」
アリストラが、返事のない女剣士の顔の前でヒラヒラと手を振っている。
リリアーナは、隠し事ができないタイプのようだった。
ここ数日、心ここに在らずという感じで、たまにため息をついては、何かを考え込んでいた。
(気づかないフリをしなくては……。)
「二人とも。僕は今日もうどこにも行かないから、町を見てきてくれないかい。祭りの様子が気になるんだ。」
それは、彼女の気分転換になればと思い、言ったのだが。
「エルネン様を一人にするわけがないでしょう。」
アリストラはニヤッと笑い、リリアーナはハッと気がついたように言った。
「ジャンケンだね。」
相変わらず、息ぴったりだ。それにフッと口元が緩む。
窓から吹き込む温かい風も心地良く、欠伸を噛み殺した。大きすぎる机に頬杖をつく。
(どっちが行くのか、決めるのかな?)
「「ジャンケン——」」
言い終わる前に、魔法使いはパーを出す。
——キィィィン
リリアーナの手元に赤い魔法陣が現れ、彼女の手は握ったまま固まった。
アリストラの魔法陣だ。
彼女はニヤつく卑怯者をキッと睨んだ後、動く方の手で腰にある剣を鞘から少し抜いた。
——バチバチバチバチ
すると、覗いた剣身が音を立てて、青色に光る。
——ブゥゥゥン
途端に、執務室床全体に青色に光る魔法陣が現れた。
「なっ。」
床から風を感じる。壁にかかる肖像画はガタガタ揺れ、机の書類はバサバサと舞った。
——パキィィ
アリストラの魔法陣は、粉々に砕け散った。
(……魔法禁止の魔法陣だ。)
パッと床の魔法陣は消えた。それと同時に、剣士はガタッと膝から崩れ落ちる。
咄嗟に身を庇う魔法使いに向かって、リリアーナは床に這いつくばったままピースを掲げた。
「……リリーが魔法を使うところは、初めて見たよ。」
眠気は吹っ飛んだ。彼女は、魔法が使えないと聞いていたのに——
「俺も、久々に見ました。」
驚いているのは自分だけではなかった。その相棒も、呆然としている。
リリアーナは、片膝をついて顔を上げた。瞳から赤い血が流れ、頬を伝う。
「リリー、大丈夫……。」
急いで駆け寄ろうとすると、それを彼女は手で制して立ち上がった。
「では、後ほど。」
目から鼻から流れる血をグイッと抑え、そのまま部屋を出ていった。
「……そんなに、祭りに行きたかったのかな。」
聞きたいことはいろいろあったが、口から出てきたのはどうでもいい言葉だった。
「今の、後出しでしたよね?」
アリストラは、俺の魔法陣は破られてばかりだと肩を落とした。




