第7話 第二王子エルネンは、お祝いを言いたい
読んでいただき、ありがとうございます。二章、最終話です。
エルネンは、湖から引っ張り上げられた。手を貸してくれたのは、散歩していたカップルだった。
「ボートに穴が空いていたんだよ。」
「こいつ、王子様を湖に道連れにして。」
「怒られるよこれ……。」
リーバンスのため息と、二人の護衛はなにか言い争いをしているようだが、耳に水が入ったらしい。よく聞こえない。
(助けてくれた人に、お礼を。)
口を開けると、ゲホゲホと、永遠と水が出てくる。
——エルネン。大丈夫?
ハンカチを差し出される。
——あなたって。
聞き覚えのある、おっとりとした柔らかい声。
「あなたって、よく湖に落ちるのね。」
「二回目だよ。」
アリア姫だ。二年ぶりの再会だった。
隣にいるのは、婚約者か。見覚えがあった。デジャブだ——
「助けに行こうと思ったのですが、楽しそうだから少し待てと、アリア様に言われまして。」
あの時も、この男に助けられた。
「婚約者の騎士とは、あなただったのですね。」
アリアと溺れたあの日、助けてくれた騎士だった。
「あの時の縁で、婚約することになったのよ。お父様に認めてもらうのに、二年かかったわ。」
アリストラとリリアーナは目を輝かせる。
「「騎士とお姫様の禁断の恋だ。」」
あ。と、魔法使いは思い出したように言った。
「この国では、エルネン様は恋のキューピットと呼ばれているそうですよ。」
僕は、二人の恋を後押しするために婚約破棄を受け入れたことになっているらしい。
「どうりで、今回はダンスの誘いが多いと思った。」
ご利益があると思われたのだ。
「ご自身が恋のキューピットなのですから、きっと素晴らしい人が現れますよ。」
護衛は二人で、ハートマークを作っている。アリアは、それを見て笑った。
「エルネン、恋の相手を探しているの?」
そうじゃない。僕はあれから、立ち直れなくて。いつまでも、前に進めなくて——
「そうだよ。笑うなんて。」
体が感覚を取り戻してきた。濡れた服は冷たいけれど、昇ってきた日が、温かい。
「よかったわ。私では、あなたを守れないと思ったのよ。」
ボートの一件で、自分が弱点になると気がついたのだろう。婚約破棄は、足手まといになる前に、身を引きたいという申し出だった。
「相思相愛だったのですね。」
低く、落ち着いた大人の声。少し年上すぎやしないか、その騎士は。
見つめ合う二人を見て、背にあるはずの朝日が眩しく感じられた。
きっとこの人は、僕よりもアリアを幸せにするだろう。
眩しくて、目が染みる——
「でも、今のあなたが楽しそうで安心したわ。出発前に話ができて、本当によかった。」
(相思相愛か。これは、恋だったのだろうか。)
「この度は、ご婚約おめでとうございます。」
もし、この気持ちが失恋なら。君に恋をして本当によかった——
さあ、行きましょうと、びしょ濡れの二人が背中を押す。
僕は、一歩踏み出した。
読んでいただいて、ありがとうございました。まだ続きますので、三章もお願いいたします。




