第2話 第二騎士団副団長テッセン卿は、センパイの頼みを断れない。
続きを読んでくださってありがとうございます。二年後から始まります。
クレマチス・テッセンがここに来るのは、ドラゴンの討伐旅以来二年ぶりだった。
王国と王国の国境線となるブーラン山脈の麓にある、ビーカン城だ。
山にはいつも霧がかかり、古い城は気味が悪く、誰も近寄ろうとはしない。
軍馬に乗った二人の騎士は、その城の久々の客だった。
日は翳り、雨がポツポツと落ちてきた。
「ここに入るの?」
もう一人の男は、恐る恐る言った。
先ほどまで涼しい顔をして、何体も魔物を斬り倒してきたのに、こういう雰囲気は苦手らしい。
「魔女の住む城です。しょうがないでしょう。」
ここに来るのは二回目だ。鍵のかかってない門を開け、馬を繋ぎ、入り口の扉もノックもせずに開けた。
ここに召使などはいない。いるのは、自分勝手な魔法使いたちだけだ。
躊躇せずに入ると、子供の笑い声が響いていた。城は古いが、中は暖かく、明るい。
もう一人の騎士も三歩ほど遅れて入り、外との雰囲気の違いに驚きながらも、城内をビクビク見回していた。
豪華な赤いカーペットの上には、ぬいぐるみや、パズルのピースなどがあちこちに落ちていた。
二年前にはなかった、天井の大きなシャンデリアを見上げていると、目の前を、半裸の幼児がキャッキャと二人走っていった。
「待ちなさい!」
その後ろを、ドタバタと子供の服を抱えた娘が追いかけて行った。あの銀髪は。
「あ。」
声をかけそびれてしまった。
「テッセン卿!」
その後ろから、エプロンをつけた青年がパタパタと出てきた。指を咥えた子供を、小脇に抱えている。
「お久しぶりですね。」
顔を合わせるのは、あの旅以来だ。年頃の青年とは、二年でこんなに成長するものなのか。
身長は、自分と同じくらいになったか。大人と変わらない。真っ赤な瞳と黒い癖毛がなければ分からなかっただろう。
「あなたが、王国の騎士団長様ですね?お会いできて光栄です。」
人懐っこい笑顔は変わらなかった。
「エドワルドだ。よろしく。」
団長は、騎士団長であることを思い出したかのように背筋を伸ばした。城の雰囲気に慣れてきたらしい。
エプロン姿の青年は、子供を抱えたまま、応接室まで前を歩いた。
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