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ドラゴンを斬った女の初恋  作者: 9iyus
第二章 過去の影と、光
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第3話 第二王子エルネンの、憂鬱な舞踏会

ダンス、ダンス、ダンス。


(目が回る——。)


 エルネンはフゥーと息を吐いた。


 ついた頃には、すでに舞踏会は始まっていた。王子は令嬢に囲まれ、延々とダンスを踊っていた。


「やっと解放されましたね。」


 二人の護衛は人が切れた隙をつき、僕を回廊の影に連れ出した。


「殿下、飲み物をどうぞ。」


 リリアーナは、手に五つの違う色のグラスを抱えていた。


「ステラの能力を見せる時が来たようですね。俺は、目と鼻と耳が良くて、毒にはすぐ気がつけるのです。」


 アリストラは、クンクンと匂いを嗅ぐ。


「うーん。ここは女の人の香水がたくさん香ってて、良くわからないな。」


「ええ?」


 二人は僕を挟んで、飲み物をクンクン嗅いでいる。


「何をやっているんだ、君たちは。」


 後ろから、呆れたような声をかけられ振り向いた。口元の傷。クレマチスだった。


「お久しぶりです、殿下。二人も。」


 ハンサムな騎士は挨拶をした後、二人の格好を見てギョッとした。


「どうしたのその服、縁起でもない。」


 第三騎士団は、王族の護衛が担当だった。白地に、金の刺繍が入った、最も煌びやかな制服だ。


 二人は、派手な服とは裏腹に暗い表情でため息をつき、肩を落とす。


「並んでいるのを見ると、エリオール卿を思い出すな……。」


 それは聞こえなかったフリをして言った。


「テッセン卿も、来ていたのですね。」


「第一王子の付き添いです。兄上は、ご令嬢たちに捕まっておりますよ。」


 彼はククッと笑った。二人は仲がいい。クレマチスは、兄、テオールの幼馴染なのだ。


「殿下、アリア姫には挨拶できましたか。」


 リリアーナとアリストラは、今回の主役を見ようとホールを見下ろしている。彼は、ホールの隅を指差した。


「あそこだよ。今、テオール王子と話している。」


 ピンク色のドレスに、フワフワした栗毛。彼女が纒う柔らかい雰囲気は、二年前と変わらなかった。


「王子様と隣国のお姫様だって。」


「禁断の恋かもよ。」


 二人がヒソヒソ話すのを、若い騎士は笑って否定した。


「そうじゃない。兄妹のような間柄だったんだ。アリア姫は、エルネン王子の婚約者だったから。」


「「ええっ」」


 クレマチスは、目を細めてホールを眺めた。


「小さい二人がここでワルツを踊っていたのが、昨日のことのようです。アリア姫、綺麗になりましたね。」


「うん、そうだね。」


***


 あれは、何年前だろう。


 暖かな陽気、花の咲き乱れる庭園だ。アリアと二人で散歩したことを思い出す。


「向こうに、珍しい花が咲いているんだ。」


 自分より大きな手を、グイグイと引いた。彼女は優しい目で、僕のことを見下ろした。


 奥に進むと、勉強が嫌で逃げ出したテオールが、木陰で昼寝しているのを見つけた。


 兄はパチっと目を開けると、口の前に指を立ててシーっと合図をした。


「シーっじゃないですよ。」


 いつの間にか、テオールを連れ戻しにきたクレマチスが後ろに立っていた。


「かわいい弟と義妹が、遊んで欲しいと言うんだよ。」


 テオールは悪びれた様子もなく言った。


 アリアはクスクスと笑った。クレマチスが困った顔をして、こちらを見る——


***

 

 クレマチスはテオールと目が合うと、バタバタとホールに降りていった。 


「婚約者として顔を合わせたのは、僕が八つで、アリアが十二の時か。」


 期待の眼差しに負け、深くしまった記憶の蓋を開ける。


「月に一度、顔を合わせてお茶をする日があって、お互いの国を訪れあって。」


 それは、和平を目的とした政略結婚だったが。


「その時は、婚約の意味など分からなかったけど、遊んでもらえるその日を楽しみに過ごしていたよ。」

 

 温かくて、まるで陽が差し込むような思い出。


 それから、どんどん状況は変わっていった。


 テオールのさらに上にいた兄と姉が順番に亡くなり、王位を巡る争いに巻き込まれることになった。


 国王が病に倒れ、命が狙われるようになり。


 信頼していた護衛騎士にも裏切られて——


「エルネン様、大丈夫ですか。」


 二人の護衛は、心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。


「大丈夫だよ。そのグラス、もらっていいかい?」


 不愉快な動悸を抑えようと、リリアーナの抱えているグラスに手を伸ばした。


 アリストラがサッと一つを取る。


「エルネン様、このグラスには媚薬が入っています。」


「いや、早く言いなさいよ。」


 リリアーナは、受け取った配膳係を見つけようと、ホールをキョロキョロと見渡す。


「これがハニートラップだろうが、ベッドで殺す気だったのかなどは問題ではありません。」


「は?」


 剣士は、ポカンとしている。


「重要なのは、顔です。」


 魔法使いの表情は真剣だ。


「過去の恋を忘れるには、新しい恋をするしかありません。俺は、そのご令嬢を探してきます。」


 アリストラはそのグラスをグイッと一気に飲み干すと、勢いそのままホールに降りていった。


 二人で呆然とその姿を見送る。


「あの、アリスには毒も媚薬も効きませんので、心配はいりませんよ。」


「……そのグラスは、大丈夫ということだね。」


 一つを受け取り、飲み干した。


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