第2話 魔法使いアリストラは、アクセサリーが気に入っていない。
「あれが、魔女の集団だということは、ご存知ですか?」
アリストラは、手のひらに魔法陣を浮かべた。それは、馬車の中を赤く、妖しく照らした——
——返事がない。
二人はキャッキャと仲良く、騎士服の飾り紐に苦戦しているようだった。
(秘密の共有、必要かね。)
パッと魔法陣を消した。
「ステラは、魔法戦争の生き残りらしいね。」
王子はサラッと言った。雇う前に、調べ済みなのだろう。
半世紀前にあった同士討ちのような戦争で、魔法使いはほとんどが消えた。残ったのは、凶悪で性悪な魔女ばかりだ。
「ステラが行った先々の戦場で、拾った孤児たちに能力を分け与えたのが、ステラの傭兵団というわけです。」
リリアーナは、襟を整えながら言った。
「ステラは、特定の国に力を貸すことはありません。そして、その傭兵たちは、ステラを裏切ることはありません。」
こんな風に、一国の王子の護衛などはしないし、そんな仕事も来ないのだ。魔法使いは信用がない。
「エルネン様は、ステラの傭兵を見たことはありますか?」
「真っ赤な瞳に、金色の鎖が首から下がっているのだと。」
王子はこちらを見た。自分の姿がまさにそうだ。
「これは、ステラの首輪と言われていて。」
首に下がる鎖を持ち上げた。リリアーナの慌てた姿が、視界の隅に映った。
(もし、外れたらどうする?自由になったら、何をする——?)
するとグウウッと首が閉まり、視界が真っ赤に染まる。目から、温かいものが溢れる。
「やめろ。王子様にそんなものを見せるな。」
「アリス、大丈夫かい?」
両手を掴まれた。リリアーナと、王子か。
「ステラは、弟子たちの命に魔法をかけているのです。」
グイグイッと目をハンカチで拭われた。ぼやけ気味だが、彼女のハンカチが赤く染まっているのが見える。
喉が熱い。ゴホッと咳をすると、口からも血が出た。ハンカチをそのまま突っ込まれる。
「エルネン様。私たちは、ステラとの契約は破れないという事を覚えておいてください。」
それが今後、不利に働くことがないといいのですが、とリリアーナの不安そうな声が聞こえた。
「わかったよ。」
まだ赤く滲む視界の向こうで、エルネンが心配そうに顔を覗き込んでいるのがわかった。
やり過ぎたか。瞼が重い。眠気に襲われる——
———
夕陽が差し込み、馬車の中は温かいオレンジ色に染まった。
リリアーナは寄りかかってくる相棒に、背もたれを貸した。
アリストラは体に負担がかかったのか、眠ってしまった。鼻からも血が垂れていたので、ハンカチをちぎって詰めてやった。
(フフッ。間抜け面。)
「エルネン様も、寝てください。」
王子はうつらうつらと船を漕いでいた。まだ、よく眠れない日々を過ごしているのだろう。
「私たちは、出て行った方がいいですか?」
立ちあがると、グッと腕を掴まれ、隣に座らされた。
「肩を貸してくれないか。」
肩にこてんと頭が置かれる。柔らかい髪が頬に当たった。近い。息を吸う音さえ聞こえる。
「リリーは、大きい男が好きなのですか。」
睡眠のことか。気にしていたのなら申し訳ない。
「大きい男の方が、好かれるのでは……。一般的には。」
どう答えるのが正解か分からず、たどたどしく答えた。最近、同じようなことを聞かれた気がする。
「殿下なら、横になれますよ。」
「殿下じゃなくて……。」
エルネンは、起きてるのか寝ているのかわからない呟きの後、グッと肩にもたれかかってきた。
眠ってしまったのだろうか。
そのまま座席にそろそろと、エルネンを横に寝かせた。
席を立とうとしたが、さっき呼び止められた事を思い出した。頭を膝に置いたまま、動かずにじっとしていた。
「おやすみなさい、エルネン様。」
差し込む日に金髪がキラキラと輝いて、思わず指を通した。そのまま優しく撫でると、美しい顔が微笑んだような気がした。




