第1話 魔法使いアリストラは、舞踏会に着ていく服がない。
第二章です。読んでいただいてる方、ありがとうございます。
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二年前、秋の終わり頃——
ドラゴン討伐隊に同行した第二騎士団は、ドラゴンの首を携えハイラル国に凱旋した。
祭りが開かれ、飾り付けられた町を通り、城に向かって、一行はゆっくりと進んだ。
冷たい風がブワッと吹いて、紙吹雪が巻き上がった——
リーバンスはその時、初めてエルネンを見た。
王子は、城壁の上からこちらを見下ろしていた。
討伐隊に降る紙吹雪は、まるで王子のためにあるようだった。
母親に似て美しい、王様一番のお気に入り。明るいブロンドが、子供らしい明るい表情によく似合う。
仲が良いのだろう。隣にいるスラッと背の高い騎士と、笑い合っていた。
***
アリストラは、この騎士服を用意したリーバンスを恨んだ。
(アイツ……。)
エルネンは、外の風景を眺めていた。天気が良く、差し込んだ日の光はガタガタと揺れる。
三人は、馬車に揺られていた。
エルネンは、なんでもないように言った。
「その服は、どこで?似合っているね。懐かしいなあ。」
リリアーナは、頑なにこの制服を拒否している。
「知らなかったのです……。」
「いや、いいんだ。僕が付いて来てくれといったんだから。服がないとは思わなくて。」
隣国の舞踏会だ。着ていく服がなくて、宿舎を漁り、リーバスが見つけてきたのがこれだった。
———
『この騎士服、どこかで見覚えがあるなあ。』
『なんでもいいよ。もう使っていないんだろ?』
———
もう存在しない、第三騎士団のものだ。王族を守る騎士たちだった。エルネンを裏切った護衛騎士の——
ことごとく地雷を踏み抜く俺たちに、エルネンは笑いかけた。
「僕のことを気にしているなら大丈夫。制服は問題ないんだけど……。」
王子の声は小さくなる。
声を聞こうと、リリアーナと頭を寄せた。馬車が揺れて、三人の頭がぶつかった。
「実は、その時から赤毛が苦手になってしまって。誰にも言ったことはないのですが。」
エルネンは、情けないですよねと小さく笑った。
この国には、赤毛が多い。トラウマを隠して堪えてきたのだろう。
可哀想な王子様——。
それを聞いてすぐ、二人で王子様を抱きしめた。リリアーナは、ヨシヨシと頭を撫でている。
「よく打ち明けてくれましたね。これから貴方様に近づく赤毛は、全て私が退治しましょう。」
エルネンは少し戸惑った様子だったが、されるがままに大人しくしていた。
「よかったな、女騎士の方じゃなくて。」
「なに?」
エルネンは騎士の腕の中で、あ。と口を開けた。
「先程、リーバンスから聞きまして。俺たちの前任者は、赤髪が綺麗な若い女騎士だったと。」
リリアーナは、パッと体を離した。
「殿下、リリーとは、俺より少し距離がありますよね。本当に問題ありませんか?」
少しの沈黙があった。
エルネンは、離されたリリアーナの手をソッと握り、彼女の顔を覗き込む。
「私は、バルト卿のことを信頼しています。」
俺の相棒は、王子の美しい碧眼に吸い込まれ、目が離せないようだった。その背中を、強く叩く。
(しっかりしろ。)
「良かったです。前言ったように、こいつにレディのような扱いは不要です。言葉遣いも、気遣いも。」
リリアーナはブルブルと頭を振ると、コホンと小さく咳払いをした。
「私のことは、リリーと呼んでください。ここには、私たちしか居ませんし。」
「俺のことは、アリスと呼んでください。みんなそう呼ぶので。」
エルネンは、いつもの笑顔だ。ニコッと笑った。
「では、僕のこともエルネンで結構です。」
そこで、ふと気がついた。これは、秘密の共有ではないか。
俺たちがリーバンスに言われたように、王子も団長から仲直りするよう言われたに違いない。
「ステラの傭兵団には、制服とかないの?」
エルネンは、リリアーナがしぶしぶ着始めた騎士服の袖を揃えながら聞いた。
「正装をして護衛につくなど、滅多にありません。」
こちらも明かすことがある。
「エルネン様は、ステラの傭兵団についてどれほどご存知ですか。」




