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ドラゴンを斬った女の初恋  作者: 9iyus
第一章 出会いと忠誠
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第15話 アリストラの夜

***


 アリストラは、王子の寝室の扉をボーッと眺めていた。


(リリーは、酒場まで辿り着いたかな。)


 夜中を待ち、二人の依頼人が帰ったら踏み込む手筈だ。


 彼女は強く、心配する必要はない。呑気に大きな欠伸をした、その瞬間だった。


「アリス、いるのかい。」


 白く塗られた目の前の扉が開いた。王子の姿を見るのは、十日ぶりだった。


「はい、おります。こんばんは、あの、お久しぶりですね。」


 この扉が夜に開いたことはなかった。寝ている気配もなかったが、それはいつものことだった。


「調子を崩していたんだ。君は、なんでも知っているかも知れないけど。」


 王子は、お茶をしたその日に倒れた。


 警戒されているため会うこともできず、寝室だけを守り続けた。


「眠れないのでしょう。この間のこと、申し訳ありませんでした。殿下の問題を、解決して差し上げたくて。出過ぎたことを致しました。」


 膝をついて謝った。


 エルネンは、不眠症だった。


 成長期の体は眠りを欲しているのだろう。数日で倒れ、眠り、また眠れなくなるのを繰り返していた。


「僕も、眠くてイライラしていたのかも知れない。すまなかった。」


 暗がりでも表情がよく見えるのは、エルネンの顔が美しいからだろうか。弱った表情は、儚さを増す——


 機嫌が悪くて席を立ったわけではないことは、わかっていた。


 この王子には心に傷があって、それを、その時踏み抜いてしまったのだ。


「いいえ、私が悪かったのです。」


 それが、申し訳なくて。もう一度深く頭を下げた。


「バルト卿も、どこかで見張っているんだろう。度々来ていた夜の来訪者が、君たちが来てからパッタリ止んだから。」


 寝室を狙う刺客は、城に来る前からのことだったらしい。


 さあもう一人の所に連れていってくれと、王子は軽そうなガウンの前を縛った。


 そこらへんにいると思っているのだろう。


「今ですか。もう遅いですし、明日にしませんか。」


「アリス。君が僕の言葉に逆らうのは、隠し事がある時か、嘘をついている時だ。」


 思わず黙った。今、謝罪したばかりなのに。


「怒らないから、言ってごらん。」


「では、もう少し暖かい上着を着ていただけますか。」


***


「怒らないって言ったじゃないですか。」


「怒ってないって。」


 エルネンの剣先は鋭く相手を突いた。繊細そうな見た目と裏腹に剣術は荒く、力強い。  


ガダガダダッ——


 相手は剣で受けたが、衝撃そのまま店の中に倒れ込んだ。中にいたのは五人。ジロリとこちらを睨みつける。


「これで、全部なの。」


「はい。ここで仕事を受けて、傭兵などにまた依頼するのです。」


 殺し屋仲介業者だ。


「本当に怒ってないよ、アリス。僕も、いい加減目障りだと思っていたんだ。」


 それは、怒っている人間のセリフではないだろうか。


 奥にカウンターがあった。そこから酒瓶が飛んでくる。


 王子は、派手な剣でそれを真っ二つに斬ると、投げた相手に向かって走りだす。


ガシャァァ——


 瓶ガラスが床で砕ける音が、耳障りに響いた。


 横からナイフを投げられるが、エルネンは一切眼中にない。


「まってまって。」


 慌ててナイフを魔法陣でガードした。ナイフは向きを変え、相手に向かって飛んでいく。


 外した。それは店を照らすランプに当たり、視界が一気に暗くなる——


「王子様、危ないですって。」


 その反対側からきた攻撃も、魔法陣でガードだ。こっちもナイフか。構えたまま、突っ込んでくる。

 

バリバリバリッ、バリッ……


 相手の突きは、五重にした魔法陣を四枚破り、エルネンの顔ギリギリの所で止まる。王子は怯まず距離を詰め、相手を切り倒した。


 その後ろからきた相手にはとうとう手が足りず、短剣を手に、体を滑り込ませた。


シャッ——


「うわっ。」


 浅く体が斬られた。そこがじんわり熱く感じる。


 次の攻撃は短剣で受け、跳ね飛ばし、トドメを刺した。


 後ろを振り返ると、勝負は終わっていた。


 王子は突き刺した剣をグッと抜くと、ポツリと呟いた。


「あと三年の我慢だったのに。しかしまあ、悪くないな。」


 エルネンの、見事な剣術の腕前を知るものは少ない。第二王子は、爪を隠していた。


「お怪我はありませんか、殿下。」


 幼い顔を汚しているのは返り血だ。それを、グッと拭って王子は言った。


「リリアーナには、内緒にしてくれないかな。」


「どうしてです。」


(こんなにかっこいいのに。)


「可哀想な王子の方が、守りがいがあるだろう。」


 やっぱり、こいつはブッている。しかし、そんなところもかわいらしく、魅力的ではないか。


 月明りが、窓から差し込む——


 悪戯っぽい笑みが、悔しいくらい美しかった。


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