第14話 リリアーナの夜
日は沈み、曇り空から月が見え隠れする夜だ。
リリアーナは、草むらに隠れ、酒場の窓から漏れる灯りをジッと見ていた。
「こんなことをしては、余計に怒られるかも知れないなあ。」
独り言に返事をする相棒はいない。今日は一人だ。
酒場にあつまるのは、ただの客ではなかった。今夜ここには、殺し屋が集まる。
ここを見つけたのは、アリストラだ。城内外、さまざまな情報を集めるのは、彼の得意分野だった。
***
「勝手なことはするなと、王子様が言っていたでしょう。」
「依頼人を明らかにしようっていうんじゃないさ。悪い奴らを懲らしめるだけだよ。」
期限がない休み中の二人だったが、エルネンの寝室は、勝手に守り続けていた。
真夜中、城の庭園だ。依然として現れる刺客を、退治し終わったところだった。
「明日の晩、こいつらのボスがそこに現れるらしい。防戦一方というのも悔しいだろ。」
その場を叩けということらしい。渋る私に向かって、自分勝手な魔法使いはシッと口の前に人差し指を立てた。
「これは、エルネン王子には関係のない場所で、勝手に起きる出来事だよ。この組織は、一晩で壊滅する。」
確かに、倒しても倒しても現れる殺し屋たちは鬱陶しかった。ボスを倒せばしばらく静かになるだろう。
「俺は、王子殿下を守らないといけないから。」
「私にやれってことかい。分かったよ。」
いつもの流れだ。文句を言いながらも、ついつい言うことを聞いてしまう。
「王子様に気づかれたら、今度こそステラのところに帰されてしまうかも知れないよ。」
「バレなければ、秘密ではないさ。」
***
夜に吹く風は肌寒く、そろそろ踏み込もうかとしていたところだった。
ガサガサッと、近くの茂みが音を立てた。
「アリスなの?王子様はどうしたのさ。」
声をひそめて声をかけた。高い草丈に身を隠しているようで、姿は見えないが。
手伝う気になったのだろうか。
「私が先に入るから、魔法は使わずに援護して。繊細な王子様に、バレてしまうといけないから。」
剣を手に持ち、ソッ立ち上がる。
「バレると、まずいのですか。」
「え。」
ひょこっと草むらから顔を出したのは、エルネン王子だった。アリストラもその後ろから、気まずそうに顔をだす。
「あ、あの。王子殿下、どうしてこちらに。先日の、無礼をお詫びします。今のも。」
もはや謝ることは一つではなかった——
「誰かいるのか!」
眩しい。酒場から出てきた大男の持つランプに、体を照らされる。
「いやあの、散歩をしてて。」
どうしよう。こいつだけやっつけてしまおうか。いや、誤魔化すか。いや。
心の決まらないまま、ゆっくりと、剣を抜く。
ガダタッ——
その時、身なりのいい男と女が店から飛び出して、走っていった。殺し屋ではなさそうだ。
依頼人だろうか?顔を見られたか?
どうしよう。咄嗟に、アリストラの顔を見てしまった。
「バカッ。」
そうだ、私は馬鹿だ。これで、他に仲間がいることがバレただろう。
隠れている意味はなくなった。エルネンが立ち上がる。
「リリアーナ・バルト、追いかけてください。殺さないように。」
「あ、はい。アリス、王子様を頼んだよ。」
凛とした声に返事をして、とりあえず走り出した。暗くて、どこに行ったのか分からない。
しかし、捕まえなくては。そして、王子様に謝ろう。
———
アリストラは、暗闇に銀髪が消えていくのを見送った。
扉のそばにいた男は、剣を構えた。
エルネンも手に持っていた剣を抜き、大股で地面を蹴り出しそちらに向かう。
ザッザッザッ——
王子の剣は、金の鍔だ。柄に宝石が埋め込まれ、王の紋様が刻まれている。
こんなに立派な剣は見たことがなかった。これで、戦えるのだろうか。
王子様は、戦うつもりなのだろうか——
エルネンは、スッと後ろを振り返った。
月明りに照らされた笑みは魅惑的で、美しいブルーの瞳に目が奪われる。
「僕のことを、守ってくれるんだろう。」
見惚れている場合ではない。慌ててエルネンのそばに走った。




