第13話 新人騎士リーバンスは、友人を元気付けたい。
「王子様と、喧嘩したんだって?」
ガサガサッ——
「——!!」
アリストラの返事は、木々の枝が張り巡る草むらの中に、白馬と共に消えていった。
「大丈夫かな。」
「大丈夫だよ。何度かこの山を登らせたから、道を覚えているはずだ。賢い馬だね。えーと。」
「サッカー号と、マドンナ。」
(変わった名前だよな……。)
名前を呼ばれた白馬はブルルッと鼻を鳴らし、速度を上げた。リリアーナと二人乗りでも足取りは軽く、険しい山道を駆け上る。
二人の護衛は、しばらく休暇を告げられた。しょげる友人二人を連れて、リーバンスは遠乗りに来たのだった。
二頭の白馬は、ステラの城から連れてこられた二人の愛馬だ。久々に主人を乗せ、機嫌がいい。
「リリー、頭を下げて。」
グッと身を屈めると、リリアーナのサラサラした銀髪が顔に当たる。
「重たいなあ。大きくなったね、リーバンス。」
「親戚のおばさんみたいなことを言うね。大きい男は嫌いですか。」
少し恥ずかしくなって身を起こすと、顔にバサバサっと青々した葉がぶつかってくる。
「俺たちは、喧嘩したことになってるのか?」
そこを抜けると目的地だ。先についた、葉と枝まみれになったアリストラは、ボーッと景色を眺めていた。
少しひらけたこの場所は、町と城を一望できるのだ。
「団長がそう言ってた。あの時は、王子様に気に入られたみたいだったのに。」
リリアーナの瞳をチラッとみた。
「城の情報を漁っていると、怪しまれたみたいで……。」
その顔は、馬から降りるとまた曇ってしまった。
「城の外から連れてきた傭兵のことなんて、殿下ははなから信用してなかったはずだ。」
(綺麗な瞳か。王子様から言われれば、嬉しいだろうけど。)
「直接聞くなり頼むなり出来たことを、王子に隠れてコソコソ嗅ぎ回ったから誤解されたんだろう。」
アリストラは、身に覚えがあるようだ。ウルウルした目でこちらを見てくる。
悪気はなかったのだろう。
「信頼関係に必要なことは、対話をすることだ。嘘をつかないことと、秘密を作らないこと。」
それは、エドワルドからの受け売りだった。きっと仲直りさせると言っていたのは、二人の実力を買ったからだろうか。
「その瞳にも、秘密があるんだろう。」
ステラの傭兵団は皆、赤い瞳をしているのだという。
「寝る暇もなく働かされるから、みんな寝不足で赤い瞳になるんだよ。」
それはアリストラの鉄板ジョークらしい。リリアーナは笑った。
「ステラのところに戻れば、またこき使われるからね。まだ、帰るわけにはいかないよ。」
十日の休みは、二人のちょうどいいリフレッシュになるだろう。王子の方は、エドワルドがなんとかするはずだ。
「エルネン王子は、リリーの瞳を気に入ったようだったから。」
二人は、肩を落として城を見下ろしていた。
この場所は、オズワルドに教えてもらったのだが、オズワルドは、エルネンに教えてもらったのだという。
城が小さく見えて、少し気が楽になるらしい。可哀想な王子様——
「その、シルバーブロンドの方が、美しいと思うけどね。」
リリアーナは振り返り、恥ずかしそうに笑った。
「ほんとうに?」
アリストラは、目を細めてこちらを見てくる。
小さく咳払いをして、帰る準備を始めた。




