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第12話 魔法使いアリストラは、お茶を淹れるのがうまい。

「なんでアリスもいるのさ。」


「いや、俺も必要な話だろう。」


 天気のいい昼下がりだ。庭園には、色とりどりの花が咲いていた。


 王子様は、リリアーナとのお茶の約束をキチンと守ってくれた。


 白いテーブルの上に、三段層のスタンド。その上には、色とりどりのお菓子が並んでいた。


 リリアーナは、いつも目を隠すようにしていた前髪を、左右に流していた。エルネンに瞳を褒められてからだ。


 彼女は、自分の瞳を気に入っていなかった。


 淡い紫色はよく見ると、赤っぽくなったり青っぽくなったり、煙が揺れるように変化する。


(見ようによっては不気味に見えるか。)


「色気づいちゃって。殿下、こいつは剣士です。レディのような扱いは不要ですよ。」


 アリストラは、リリアーナと二人で紅茶を用意する。来る途中で、ティーセットのワゴンをメイドから奪い取った。


 庭園には、誰も入らないように言っておいた。


「髪型のこと?可愛いですよ。」


 リリアーナは顔が赤くなり、固まった。


「天然が一番罪が重いのですよ、エルネン王子。」


 目を細めてエルネンを見た。ピンク色のマカロンを、リリアーナの口に放り込む。


「いつか、女性に刺されるかも知れませんね。」


 彼女はもごもご言いながら、ケーキを取り分け始めた。


 紅茶を注ぎ終わり、席についた。テーブルの周りを囲む花々は、原種に近い、ワイルドなラインナップだ。


 それが、心地いい風に吹かれ香りを運ぶ。


 三人だけで話をするのは、初めてだった。


「王子殿下。今更なのですが、なぜ私たちを雇っていただいたのか、お伺いしてもよろしいですか。」


 リリアーナは、手元でフォークをクルクル回しながら聞いた。


 エドワルドからはついでだのなんだのと言われていたが、その後、元々エルネンが自分たちに興味を持っていたことを知った。


 あの時、断ろうとした理由も聞いていなかった。


「それは、ドラゴンの魔法に興味があって。」


 この大陸には、十二体のドラゴンがいる。この国を百年前に建国したのは、ドラゴンを倒した二人の剣士だったと言われている。


 ドラゴンを倒せば、箔がつく。王位の継承に近づくだろう。


「ドラゴンを、倒しに行きたいのですか。」


 リリアーナは、意外そうに言った。エルネンは、王位に興味がないと思っていたのだろう。


 王子の纏う穏やかな雰囲気には、野心や欲がないというか、能動的な熱を感じられなかった。


 年のわりに、冷めているのだ。


「三年という期間は、殿下が決めたらしいですね。」


 今日は、この王子様に伝えたいことがあったのだ。紅茶を飲み干す。


「実は、偶然耳にしまして。王様は、長くないようですね。三年持たないと、言われているとか。」


 それは機密だった。もちろん、偶然耳にした訳ではない。


 先ほどまでの穏やかな雰囲気が一変し、張り詰めた空気が流れた。


「なぜ、そのことを知ってるんだい。」


 エルネンに冷たい目で見られ、頬に冷たい汗が伝った。返事ができない。


「殿下の身を守るために、城内の情報を集めておりました過程で、耳にした次第です。」


 リリアーナは紅茶を一口飲み、代わりにゆっくりと答えた。言葉を選んでいるのだろう。


「そんなことは、頼んでいませんが。」


(この流れはまずい。)


「この城で知った情報を、外に持ち出すことはありません。」


 慌てて答えるが、エルネンの表情は固まったままだ。ステラのスパイだと、誤解させたのではないか。


(この先に、伝えたいことがあったのに——)


「その通りです。父が死ぬまでの三年、私の後ろに立っているだけで構いません。後任を、探す必要もない。」


 王子は、席を立った。


「だから、余計なことはしないように。」


 呼び止めることもできず、城に帰っていくエルネンの背中を、呆然と見ていた。


「後を追いかけた恋人は、仲が再燃して愛が深まるんだよ。」


「追いかけなかったら?」


「別れるんじゃない。」


 こんなはずではなかったのに。ため息が止まらなかった。


 リリアーナは、ポリポリと頭をかいたあと、紅茶を一気に飲み干した。


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