第11話 魔法使いアリストラ、真夜中にデカいヤモリを見つける。
真夜中だ。暗闇に、月明かりに照らされた銀髪だけが浮き上がっていた。
アリストラは、サクサクと芝生を踏むと、その銀髪は振り向いた。
リリアーナは、半殺しにした正体不明の奇襲者を、城の外の茂みに放っていたところだった。
「そいつも、王子の寝室に入り込もうとしてたの?」
この背負っている、大男のことを言っているのだろう。
「こいつは、城の壁をよじ登ってたのを撃ち落とした。デカいヤモリかと思ったんだけど。」
「デカ過ぎるだろ。」
バサッ——
矢が刺さり、殴って気絶させた男を、リリアーナ同様茂みに放った。
「王子の秘密の恋人が、こっそり会いにきてたのかもよ。」
「じゃあ、秘密の恋人殴っちゃったかな。」
誰かに言われたわけではなかった。
来て早々王子様に何かあったら困ると、寝室を勝手に見張ったのが始まりだった。
「定期的に暗殺者が現れるけど、城の警備が怪しいよな。わざと見逃してるのか。招き入れてるんだか。」
リリアーナは、首を捻る。
「私たちがくるまでは、第一騎士団の騎士たちが、護衛についていたらしい。城の警備も同じだから、私たちを気に食わないか、甘く見てる奴はいるかもね。」
そんな気持ちで、自分の職務を全うできない奴がいるのか。それとも、エルネンを狙うものがその中にいるのか。
「この殺し屋をステラに調べてもらえば、どこの誰が雇ったのか、わかるんじゃないのか?」
この城には、王位継承権を持つものをそれぞれ支持する、三つの派閥があるようだった。
第一王子であるテオール。第二王子のエルネン。第一王女アルビラ姫。
王位に継承順位はなく、王の指名によるもので、三人平等に可能性がある。
「分かったところで、王子や王女を殺すの?」
確かに、それは俺たちが首を突っ込める話ではなかった。
「私たちには、王子様に近づくヤモリをその都度追い払うことしかできないんだよ。」
リリアーナは、城を見上げる。
「王子様は、どんな方なの?」
城でのエルネンは評判が良かった。冷淡で恐ろしい王様や、意地悪で傲慢な王妃や王女とは違い、穏やかで、いつもニコニコしている。
しかし、エルネンと打ち解けるにつれ、エドワルドの言っている意味が分かってきた。
王子はあの日から、心を閉ざした——
「あれは、ブッてるな。」
「ブツ?」
「目の奥が笑っていないと、思わないか?」
そうかなあと、リリアーナは首を傾げた。
どうか、眠る時間だけでも守ってあげよう。今、自分たちにできることはそれぐらいしかなかった。
月が綺麗な夜だった。




