第10話 騎士団長エドワルドは、二人の実力が知りたい。
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リリアーナは短剣を鞘に収め、長剣の方に手をかける。銀髪から覗く目が、本気モードだ。
「こんな訓練場でやり合ったなんて、ステラにバレたら怒られるよ。」
アリストラは、ぶつぶつと文句が止まらない。
女剣士は、ハッと何かに気がついたように言った。
「王子殿下、確かにこれは御法度でして。主人との約束を破ってでも、腕前を披露する私に、褒美が欲しいのですが。」
声はだんだん小さくなり、最後の方は聞き取れなかった。
モジモジと地面を見るリリアーナに、アリストラは躊躇なく斬りかかった。
「うわっ。ちょっと。」
アリストラは剣を下から振り上げる。リリアーナは慌てて、鞘のままそれを受け止めた。
ブン、ブン、ブゥン——
剣の重なった場所に、手のひらサイズの魔法陣が三つに重なって現れた。
それは、バネのようにググッと距離を縮めると、ブワッと広がる。
剣士は真上に高く、吹き飛ばされた。
騎士たちがどよめく。
魔法使いは、すかさず剣を上に構え直すが、落ちてきた彼女をみて、ヒッと小さな悲鳴をあげ後ずさる。
落ちてきたリリアーナが振りかざしている剣は、バチバチと音を立てて、青色の光に包まれている——
ように見えた。瞬きをすると、それは消えていた。気のせいだったのだろうか。
女剣士は身を反転させながら、落ちてきた衝撃そのままに、柄の部分でアリストラの頭を殴った。
ゴンっ。
アリストラは膝をつき、頭を抱え呻いた。
「ぐううう。」
「受けるか、避けるかしなよ。」
「こんなに本気で殴らなくても。」
アリストラは涙目だ。
「大丈夫か?」
リーバンスが駆け寄る。
「久しぶりだな、リーバンス。立派な騎士になったなあ。」
図らずも、涙の再会になったようだ。
「リーバンス卿、心配する必要はありませんよ。毒を飲んでも、槍で貫かれても、こいつは死にませんから。」
女剣士はフフッと笑って、目にかかる銀髪をかき上げた。
「王子殿下、私の腕前は、お気に召しましたか。」
王子は、ジッとリリアーナのことを見ていた。身のこなしに感心しているのかと思ったが。
「バルト卿は、綺麗な瞳をしているのですね。」
「え?」
その場にいた全員がポカンとした。見事な腕前には触れず、そんな言葉が出て来るとは。
あたりは静かになった。
「え?えっと、あの、ええっと。」
リリアーナの淡い紫の瞳は、じんわり潤み、頬に赤みが刺す。その場に謎の緊張が走る。騎士たちは、固唾を飲んで見守る。
しばらくの沈黙の後、ハッと気がついた。
再び、パンパンと手を叩く。
「おい!解散だ。持ち場につけよ。」
騎士たちは、ゾロゾロと出ていった。
「それで、褒美とは、何が欲しいのですか。」
本人には、妙なことを言った自覚はないらしく、ケロッとしている。エルネンは、あの小さな声を聞き取っていたらしい。
リリアーナは顔の赤いまま、消え入りそうな声で言った。
「私も、殿下とお茶を飲みたいのです。」




