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 あの時の事は昨日のことのように鮮明に思い出すことが出来る。

 ザアザア。雨が俺の回りに降り注いでいた。傘をささずにたっている俺を取り囲むように、そこにただひとつの孤独を作り出す。

 視線を前に向けると、そこには簡素な棺桶があった。シルバーの十字架のペンダントが掛かっている。それは彼の物だ

 そのペンダントを指で掬い、ギュッと握った。雨で冷たく冷えきっていた。ふと、雨が止んだ。黒い傘に引き込まれた俺の体はいとも簡単にその人に寄りかかる。

「…パウロは、殺されたんだ…」

「そう、なんですか」

 少し女にしては低い声が耳元で聞こえた。悲痛そうに眉を潜めた彼女は俺の返答にまた、眉を潜めた。恐らく悲しむか激昂するかだと思ったのだろう。だが、俺はそうしなかった。いや、出来なかった。

 パウロが死んだということをまだ理解しようとしていない。受け入るのをひたすら拒否している自分に嫌気がさす。

 彼女、エレミアさんは俺をゆっくり抱き締めた。幼い俺はされるがままに彼女の腕の中に収まった

「ヨシュア。お前はパウロの息子だ」

「…違いますよ。エレミアさん。俺は親が居ない」

「お前の親はパウロだ。六つの時から誰がお前を育ててくれた?パウロだろう

愛情を持って、アイツはお前を育てた。これを親と言わずなんという?」

「…そう、だけど、俺は捨て子なんだ」

「そうだ。だが、六つのヨシュアに出会ったあの時、パウロは嬉しそうにあたしに『俺の息子だ』と紹介しただろう」

「………………パウロ」

 呟いた言葉は空に消え、雨の音に掻き消された。もう一度彼の名前を呼ぶけど、欲しい返事が帰ってくることはもう無い。

 エレミアさんがもう一度言った。

「ヨシュア・アルマーク。パウロ・アルマークを忘れようとするなよ」

 辛いはずなのに、にっこりと笑ったエレミアさんの笑顔が、いやに鮮明だった。








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