事態風雲急
登場人物
丘坤…………美質な弓の名手。妖しの狻猊を僕に持つ。萬軍八極のひとり。
介象…………方士。干将、莫邪、眉間尺の三剣を佩びる。
元緒…………方士。介象の師であり、初代の介象。
藺離…………槍の手練者。妖しの火鼠を僕に持つ。萬軍八極のひとり。
欧陽坎…………矛の手練者。妖しの短狐を僕に持つ。萬軍八極のひとり。
巩岱…………細作。介象に仕える。
娄乾…………萬軍八極のひとりと思しき富豪。
韋震…………賊徒のような身形の若者。
尊盧…………妖し。黄色い瞳の武者。蚩尤に仕える九黎のひとり。
夸父…………巨人の妖し。性質は狂暴。隻眼で緑の皮膚。
元緒は、介象の肩より飛び跳ねると、その身を漆黒の烏に変じさせた。足は一本しか無かったが、器用に翼を羽搏かせ宙に浮いていた。
「お主らはこのまま娄乾を探し出せ。我が一番目の徒弟娄基は、智謀の主じゃった。娄家がその流れを汲んでおるのならば、何か知恵を授けてくれよう。丘坤の身は案ずるな。儂が必ず連れ戻す」
元緒は云い置くと、虚空高く舞い上がり、丘坤の足取りを追った。
「我らもこうしてはおれませぬ。先を急ぎましょう、介象さま」
「兄者の云うとおりだ。往こうぜ、介象さま」
気が逸る藺離に、欧陽坎も同調していた。
「うむ。そうしよう」
介象が、さっと腰を上げた。
「無事に戻って来てくれよ、丘坤……」
手許の簪に眼を落とし、欧陽坎が呟いた。
小高い要塞のようになった宮廷に、尊盧と韋震が風に紛れて現れた。
「な、何だ、ここは――⁉」
韋震は驚愕した。そこから見える城郭並みは、嵐でも通り過ぎた後のように荒廃していた。時折、男とも女ともわからぬ叫び声が、辺りから断続的に聞こえている。
「――――⁉」
韋震は、更に怖気を増した。眼を見開き、仰け反るように見上げている。
近くにその身を運んで来たのは、一体の夸父だった。
「この女を軒轅どのの許まで運べ」
地に伏した丘坤を睨み据えた尊盧が、夸父に命じた。
深緑の肌に隆々とした筋骨の夸父は、軽々と意識のない丘坤を抱え上げると、血走った隻眼でどこかへ連れ去ってしまった。
「お、おい! ど、どこに連れて行きやがる⁉」
予想だにしていなかった状況に、突如として心配が鎌首を擡げた韋震は、狼狽えながらも夸父の背に云い放った。
「どうした? お前が気を揉む必要はないであろう」
尊盧は、黄色い瞳を韋震に向けると不気味に笑った。
「付いて来るが良い」
尊盧は、夸父が向かった先とは反対の方向に韋震を誘った。




