操人蟲の威
登場人物
蚩尤…………邪神。
季平…………魯国の司徒。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
叔孫豹…………魯国の司馬。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
孟献…………魯国の司空。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
陽虎…………三公に仕える魯国の若き重臣。
尊盧…………妖し。黄色い瞳の武者。蚩尤に仕える九黎のひとり。
赫胥…………妖し。短槍の手練者。蚩尤に仕える九黎のひとり。
風沙…………妖し。美貌の持ち主。蚩尤に仕える九黎のひとり。
蒼頡…………妖し。剣の手練者。蚩尤に仕える九黎のひとり。
軒轅…………妖し。蚩尤に仕える九黎のひとり。
裴巽…………魯国の若き将校。妖しの飛廉を僕に持つ。
夸父…………巨人の妖し。性質は狂暴。隻眼で緑の皮膚。
「異常事態だ。いつまでも寝ている訳には往くまい。どういう訳か、俺は蚩尤さまから将軍の地位を授かった。逆らえば、命の保障はないだろう。蚩尤さまを主と仰ぎ、その命に従うしか、軍人の俺に残された道はない」
裴巽は、深刻な面持ちとなって続けた。
「精強な兵を選りすぐっていると聞き、見て来たところだが……やはり異常な事態だ」
裴巽の深刻な面持ちは更に曇った。
「儂らも新兵とやらを検分に向かうところ。お主も同行してくれると心強いが……」
「私は、これより調練に出向かねばなりませぬ。それに、先ほどの夸父は、捕えた民草を牢から応接間に移送する役目の一体。この先に夸父はおりませぬ故、御安心召され」
牢に監禁された男どもは、夸父により順番に応接間まで連れて往かれるようだった。
「そ、そうか……」
丁重に返答した裴巽に、叔孫豹は残念そうに呟いた。
拱手した裴巽は、叔孫豹と陽虎に背を向けるとその場を後にした。
残されたような二人は、重い足取りで先に進んだ。辿り着いた応接間には、幾つもの床几が置かれている。その床几に男どもは身動きが取れぬよう縛り付けられていた。
その部屋を司っていたのは、法衣を纏った僧侶のような老爺だった。九黎のひとり、軒轅である。剃髪だが、揉み上げから顎まで白い髯を蓄えていた。軒轅は、床几に縛り付けられた男どもの耳元に、何やら木箱から取り出した白い一寸ほどのものを置いて回っていた。
見れば、芋蟲のような成りをしている。軒轅が生み出した妖蟲、操人蟲だった。
操人蟲は、もぞもぞと耳穴から人体に入り込むと、脳漿を喰って住処とする。脳を喰われた人体からは、感情が消え失せ、痛みを感じる機能を失い、糧食を摂ることもなくなる。つまりは、蚩尤らの命を聞き入れるだけの兵となるのだった。
「――――⁉」
その光景に叔孫豹と陽虎の二人は息を飲んだ。
脳漿を喰う操人蟲に、床几の上に縛り付けられた男どもは、苦痛の絶叫を上げていた。もんどり打とうにも、縛り付けられた躰は自由を奪われている。
絶叫に混ざり込んでいたのは、軒轅の奇妙な笑い声だった。
その絶叫が止んだとき、男どもの眼はどれも虚ろになっていた。これで、五十ほどの従順な新兵が完成していた。




