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報仇の剣 -萬軍八極編-  作者: 熊谷 柿
第5章 螢惑星
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操人蟲の威

登場人物

蚩尤しゆう…………邪神。

季平きへい…………国の司徒しと。三公のひとり。三桓氏さんかんしと呼ばれる。

叔孫豹じょそんひょう…………魯国の司馬しば。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。

孟献もうけん…………魯国の司空しくう。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。

陽虎ようこ…………三公に仕える魯国の若き重臣。

尊盧そんろ…………あやかし。黄色い瞳の武者。蚩尤に仕える九黎きゅうれいのひとり。

赫胥かくしょ…………妖し。短槍の手練者てだれ。蚩尤に仕える九黎のひとり。

風沙ふうさ…………妖し。美貌の持ち主。蚩尤に仕える九黎のひとり。

蒼頡そうけつ…………妖し。剣の手練者。蚩尤に仕える九黎のひとり。

軒轅けんえん…………妖し。蚩尤に仕える九黎のひとり。

裴巽はいそん…………魯国の若き将校。妖しの飛廉ひれんしもべに持つ。


夸父こほ…………巨人の妖し。性質たちは狂暴。隻眼せきがんで緑の皮膚。

「異常事態だ。いつまでも寝ている訳には往くまい。どういう訳か、俺は蚩尤しゆうさまから将軍の地位を授かった。逆らえば、命の保障はないだろう。蚩尤さまを主と仰ぎ、その命に従うしか、軍人の俺に残された道はない」

 裴巽はいそんは、深刻な面持ちとなって続けた。

「精強な兵を選りすぐっていると聞き、見て来たところだが……やはり異常な事態だ」

 裴巽の深刻な面持ちは更に曇った。

わしらも新兵とやらを検分に向かうところ。お主も同行してくれると心強いが……」

「私は、これより調練に出向かねばなりませぬ。それに、先ほどの夸父こほは、捕えた民草を牢から応接間に移送する役目の一体。この先に夸父はおりませぬゆえ、御安心召され」

 牢に監禁された男どもは、夸父により順番に応接間まで連れて往かれるようだった。

「そ、そうか……」

 丁重に返答した裴巽に、叔孫豹じょそんひょうは残念そうに呟いた。

 拱手きょうしゅした裴巽は、叔孫豹と陽虎ようこに背を向けるとその場を後にした。

 残されたような二人は、重い足取りで先に進んだ。辿たどり着いた応接間には、幾つもの床几しょうぎが置かれている。その床几に男どもは身動きが取れぬよう縛り付けられていた。

 その部屋を司っていたのは、法衣をまとった僧侶のような老爺ろうやだった。九黎きゅうれいのひとり、軒轅けんえんである。剃髪ていはつだが、み上げからあごまで白いひげを蓄えていた。軒轅は、床几に縛り付けられた男どもの耳元に、何やら木箱から取り出した白い一寸ほどのものを置いて回っていた。

 見れば、芋蟲いもむしのような成りをしている。軒轅が生み出した妖蟲ようちゅう操人蟲そうじんちゅうだった。

 操人蟲は、もぞもぞと耳穴から人体に入り込むと、脳漿のうしょうを喰って住処すみかとする。脳を喰われた人体からは、感情が消え失せ、痛みを感じる機能を失い、糧食を摂ることもなくなる。つまりは、蚩尤らの命を聞き入れるだけの兵となるのだった。

「――――⁉」

 その光景に叔孫豹と陽虎の二人は息を飲んだ。

 脳漿を喰う操人蟲に、床几の上に縛り付けられた男どもは、苦痛の絶叫を上げていた。もんどり打とうにも、縛り付けられたからだは自由を奪われている。

 絶叫に混ざり込んでいたのは、軒轅の奇妙な笑い声だった。

 その絶叫が止んだとき、男どもの眼はどれもうつろになっていた。これで、五十ほどの従順な新兵が完成していた。

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