奸邪の企み
登場人物
蚩尤…………邪神。
季平…………魯国の司徒。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
叔孫豹…………魯国の司馬。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
孟献…………魯国の司空。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
陽虎…………三公に仕える魯国の若き重臣。
尊盧…………妖し。黄色い瞳の武者。蚩尤に仕える九黎のひとり。
赫胥…………妖し。短槍の手練者。蚩尤に仕える九黎のひとり。
風沙…………妖し。美貌の持ち主。蚩尤に仕える九黎のひとり。
蒼頡…………妖し。剣の手練者。蚩尤に仕える九黎のひとり。
軒轅…………妖し。蚩尤に仕える九黎のひとり。
夸父…………巨人の妖し。性質は狂暴。隻眼で緑の皮膚。
「風沙どのの意見はもっともです。上質な人の生き血は、風沙どのを更に美しくするのですから」
玉座の蚩尤へ身を寄せながら、尊盧が麗人の風沙に微笑を湛えた。
「あら、わかっているのね、尊盧」
「風沙どのは、私にとって母のようなお方ですから」
風沙は、嫣然と微笑み返した。
「何か良い知恵はあるか、蒼頡?」
玉座の横に侍った蒼頡が、四つの切れ長の眼を細めた。
「夸父どもに、若い男女を宮廷に拉致するよう教え込みましょう。男は兵に、女は糧とします。童と老人は役に立ち申さぬ。これまで通り、夸父の思いのままで宜しいかと」
「どうだ、風沙?」
蚩尤は、口辺に微笑を湛えて質した。
「素敵!」
顔を綻ばせた風沙は、抱いた幼児を上機嫌であやした。
「これで兵も増えるということか。隣国に攻め入る計画も前倒しとなりそうだ。おい、叔孫豹とやら、お前の位は司馬だったな? 新兵は今どれほどか、軒轅のところに往って見て来るがいい」
頬杖を突いたままの蚩尤が、窓辺の叔孫豹に六つの鋭い視線を向けた。
忽ち全身に電流が走ったような叔孫豹は、蚩尤に臣下の礼を取って応じた。
「か、畏まってございます」
それを見た季平と孟献が陽虎に目配せした。一緒に往ってやれということのようだった。
蚩尤の命に素直に応じた叔孫豹は、青褪めた顔で恰幅の良い身を揺らして玉座の間を後にした。それに陽虎がそそくさと続く。
「蚩尤さまは、新兵を見て来いと云われたが、その新兵とやらはどこに匿われておるのだ?」
後方から身を寄せる陽虎に、焦燥感に苛まれたような叔孫豹は口早に質した。
「応接間に幾つもの床几を用意し、そこで新兵に処置を施していると聞きましたが……」
「応接間だと――⁉」
眼を剥いた叔孫豹が声を荒らげた。
新兵と云っても、夸父が拉致してきた男どものことだった。




