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報仇の剣 -萬軍八極編-  作者: 熊谷 柿
第5章 螢惑星
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悪夢の城郭

登場人物

蚩尤しゆう…………邪神。

季平きへい…………国の司徒しと。三公のひとり。三桓氏さんかんしと呼ばれる。

叔孫豹じょそんひょう…………魯国の司馬しば。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。

孟献もうけん…………魯国の司空しくう。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。

陽虎ようこ…………三公に仕える魯国の若き重臣。

尊盧そんろ…………あやかし。黄色い瞳の武者。蚩尤に仕える九黎きゅうれいのひとり。

赫胥かくしょ…………妖し。短槍の手練者てだれ。蚩尤に仕える九黎のひとり。


夸父こほ…………巨人の妖し。性質たちは狂暴。隻眼せきがんで緑の皮膚。

 陽虎ようこは、苦悶くもんの表情を浮かべるとほぞんだ。脇目も振らず三公に追従して歩いた。

 都には、男とも女ともわからぬ悲鳴が木霊こだまし、四肢を留めない無惨むざん屍体したいが至るところに転がっている。

 その惨状に家を捨て、曲阜きょくふから一刻も早く逃れようとする者も在ったが、夸父こほに悟られるのが落ちだった。逃げ場を失った民は、息をひそめ、身を震わせながら屋内にこもるしか手段すべがなかった。

 夸父の足音が近付いている。気配が遠ざかっても、また別の夸父が近付いているかもしれない。曲阜からの脱出は、民草にとって運次第だった。

 それから三日後――。

 血生臭い玉座の間、その窓からは、三公の季平きへい叔孫豹じょそんひょう孟献もうけんが、青褪あおざめた表情で城郭まちを見下ろしている。

 その後方には、神妙な面持ちの陽虎が侍っていた。

 の重臣たちは、ただ、手をこまねいて都が地獄絵図となるのを傍観するしかなかった。

「民草を守らなくても良いのか? まあ、そのようなことをすれば、お主らの首は胴から離れるがな」

 豪奢ごうしゃよろいかぶとを身にまとい、ほこを引っげた武者だった。ひげのない端正な顔立ちだが、肌は浅黒く、奇妙にも黄色い瞳だった。態態わざわざ、三公の近くまで身を寄せ、あざけり笑ったのは、蚩尤しゆうの許に馳せ参じた九黎きゅうれいのひとり、尊盧そんろだった。

 三公は、その声にどれも恰幅かっぷくの良いからだを縮こませたが、後方に控えた陽虎は、尊盧に侮蔑ぶべつの眼を向けた。

 その眼を受け止めた尊盧は、高笑いして玉座に在った蚩尤の許に身をひるがえした。

 壁にもたれた全身刺青の赫胥かくしょが、その様子を詰まらなそうに眺めている。

「夸父どもが捕える者は粗悪で、その生き血はどれも飲めたものではございませぬ。良質な生き血を摂るに難儀せぬ方法はないのですか、蚩尤さま?」

 些細ささいな所作でも、馥郁ふくいくとした芳香ほうこうが放たれていた。豪華絢爛ごうかけんらんな着物で身を包んだ、高貴な麗人にさえ見える。胸にはすやすやと眠る二歳ほどの幼児を抱いていた。その美貌の主は、玉座で頬杖を突き、足を組んで欠伸あくびさら蚩尤しゆうに訴えた。

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