魔魅の跳梁
登場人物
蚩尤…………邪神。
季平…………魯国の司徒。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
叔孫豹…………魯国の司馬。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
孟献…………魯国の司空。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
陽虎…………三公に仕える魯国の若き重臣。
夸父…………巨人の妖し。性質は狂暴。隻眼で緑の皮膚。
魯の都、曲阜は混乱を極めていた。
蚩尤により放たれた巨人の妖し、五十体ほどの夸父が、城郭を蹂躙して回っていた。棍棒で建物を破壊し、中に身を潜める民を見付けては連れ去っている。
連れ去られるならばまだ良い。振り払った棍棒に首を飛ばされ、血潮の舞う四肢を奪い合うように引き裂かれて喰われる者も在った。
異形の者は、そればかりではない。
どれも薄ら笑いを浮かべている。荒れ狂う巨人の夸父には見向きもせず、物見遊山の体で城郭を闊歩していたのは、全身に奇妙な刺青を施した者、眼が四つある者、更に、眼が六つで腕が六本生えている者だった。
中でも眼が六つもある異形の主と眼が合った民は、それだけで事切れた。
「さ、三公さま――‼」
束の間、曲阜の民は活路を見出した。魔魅跳梁の最中に、国の重臣を認めたからである。
しかし、季平、叔孫豹、孟献の三公は、慈悲を請う人々から挙って眼を逸らした。民草が援けを求め足許に縋り付こうとも、夸父の巨大な手が鷲掴んで引き離す。それでも、素知らぬ顔で異形の者たちに連なった。
「三公さま! 民どもに救済の手を差し延べずに良いのですか⁉ このままでは、曲阜はおろか、魯は壊滅してしまいますぞ!」
最後尾を歩く陽虎は、阿鼻叫喚が響き渡る最中、前を行く異形の者たちに聞こえぬよう三公の耳元で囁いた。
「黙れ、陽虎。これは夢じゃ。夢と思い、邪悪な暴挙を静観致せ」
そう返したのは、司徒の季平だった。太い白眉に陰った細い眼からは、感情が読み取れない。どうしようもない状況に、肝を据えたようにも見える。
「左様。あのような異能の主には抗いようもない。どんなに民草が屠られようとも、また増える」
神妙な面持ちとなって小声で返したのは、両耳の作りが小さい司馬の叔孫豹だった。
「我ら三公さえ生き永らえれば、魯は再生できよう。今は謂われぬ咎で我らに災禍が降り掛からぬよう、従順な態度を見せるほかあるまい」
口許を覆うほどの白髭を揺らして、司空の孟献が呟いた。
「――――⁉」




