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報仇の剣 -萬軍八極編-  作者: 熊谷 柿
第5章 螢惑星
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魔魅の跳梁

登場人物

蚩尤しゆう…………邪神。

季平きへい…………国の司徒しと。三公のひとり。三桓氏さんかんしと呼ばれる。

叔孫豹じょそんひょう…………魯国の司馬しば。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。

孟献もうけん…………魯国の司空しくう。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。

陽虎ようこ…………三公に仕える魯国の若き重臣。


夸父こほ…………巨人のあやかし。性質たちは狂暴。隻眼せきがんで緑の皮膚。

 の都、曲阜きょくふは混乱を極めていた。

 蚩尤しゆうにより放たれた巨人のあやかし、五十体ほどの夸父こほが、城郭まち蹂躙じゅうりんして回っていた。棍棒こんぼうで建物を破壊し、中に身を潜める民を見付けては連れ去っている。

 連れ去られるならばまだ良い。振り払った棍棒に首を飛ばされ、血潮の舞う四肢を奪い合うように引き裂かれて喰われる者も在った。

 異形の者は、そればかりではない。

 どれも薄ら笑いを浮かべている。荒れ狂う巨人の夸父には見向きもせず、物見遊山の体で城郭を闊歩かっぽしていたのは、全身に奇妙な刺青いれずみを施した者、眼が四つある者、更に、眼が六つでかいなが六本生えている者だった。

 中でも眼が六つもある異形の主と眼が合った民は、それだけで事切れた。

「さ、三公さま――‼」

 束の間、曲阜の民は活路を見出した。魔魅まみ跳梁ちょうりょうの最中に、国の重臣を認めたからである。

 しかし、季平きへい叔孫豹じょそんひょう孟献もうけんの三公は、慈悲を請う人々からこぞって眼をそららした。民草がたすけを求め足許にすがり付こうとも、夸父の巨大な手が鷲掴わしづかんで引き離す。それでも、素知らぬ顔で異形の者たちに連なった。

「三公さま! 民どもに救済の手を差し延べずに良いのですか⁉ このままでは、曲阜はおろか、魯は壊滅してしまいますぞ!」

 最後尾を歩く陽虎ようこは、阿鼻叫喚あびきょうかんが響き渡る最中、前を行く異形の者たちに聞こえぬよう三公の耳元でささやいた。

「黙れ、陽虎。これは夢じゃ。夢と思い、邪悪な暴挙を静観致せ」

 そう返したのは、司徒しとの季平だった。太い白眉に陰った細い眼からは、感情が読み取れない。どうしようもない状況に、肝を据えたようにも見える。

「左様。あのような異能の主にはあらがいようもない。どんなに民草がほふられようとも、また増える」

 神妙な面持ちとなって小声で返したのは、両耳の作りが小さい司馬しばの叔孫豹だった。

「我ら三公さえ生きながらえれば、魯は再生できよう。今はいわわれぬとがで我らに災禍が降り掛からぬよう、従順な態度を見せるほかあるまい」

 口許を覆うほどの白髭を揺らして、司空しくうの孟献がつぶやいた。

「――――⁉」

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