夢の中の怪
祁盈…………周王朝の血筋を汲む晋国の重臣。
楊食我…………周王朝の血筋を汲む晋国の重臣。
欧陽坎…………矛の手練者。妖しの短狐を僕に持つ。
藺離…………槍の手練者。妖しの火鼠を僕に持つ。萬軍八極のひとり。
爺…………欧陽坎の祖父。
「商い……?」
「最初はな。酒を売り、草履も売ったと聞いておる。商売はそのうち屠殺の業となり、今に至っておる。世渡り下手の血は、お前の父親がしっかりと継いでな」
祖父は、己が息子を嘲笑した。
ふと、欧陽坎は祖父の手許が眼に付いた。拭ったはずの血が拭いきれていないところがあった。痣のようだった。
「爺、そんなところに痣などあったか?」
それは、薄いが八つの角を持った星型の多角形に見えた。
「ん? ああ、幼い頃はなかったが、お前くらいの歳に表れてのう。次第に濃くなったが、歳を取るにつれ、また色が褪めてきおったわい」
祖父は、手首を何度も引っ繰り返すと、欧陽坎の右肩に眼を据えた。
「それよりも……」
祖父が微笑を浮かせて呟いた。
「納屋から連れ出したのは、矛だけではなかったか」
「あん?」
欧陽坎は、小首を傾げると怪訝な顔を晒した。
その夜、寝床に付いた欧陽坎は、魘されていた。
幾つもの小さな水の玉が襲ってくる。その玉が勢い良く躰を貫いた。痛みはなく、血も噴出していない。躰中を見回し、はっと顔を上げた欧陽坎の前に佇んでいたのは、全身が青色の毛に覆われ、白い鬣を備えた獺のような生き物だった。
その生き物が、ひょっこりと二本脚で立つと、周囲に幾つもの水の玉が浮かんだ。それが一塊に纏まると、欧陽坎の許へ走り、その身を覆った。
苦しくなって眼が覚めた。呼吸は荒い。全身が水で濡れたように汗まみれだった。
「な、何だってんだ……?」
呼吸が落ち着いてきた欧陽坎は、独り言ちた。それから数日、毎夜同じ夢を見た。
「爺……」
「何じゃ?」
欧陽坎は、店の裏で獣の血抜きをしている祖父に連夜見続ける夢の話を聞かせた。
「それは、短狐の仕業じゃな」
「短狐……?」




