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報仇の剣 -萬軍八極編-  作者: 熊谷 柿
第4章 忠星
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腕白と祖父

祁盈きえい…………周王朝の血筋をしん国の重臣。

楊食我ようしょくが…………周王朝の血筋を汲む晋国の重臣。

欧陽坎おうようかん…………矛の手練者てだれあやかしの短狐たんこしもべに持つ。

藺離りんり…………槍の手練者。妖しの火鼠かそを僕に持つ。萬軍八極ばんぐんはっきょくのひとり。

じい…………欧陽坎の祖父。

 その鹿は、降り掛かる災厄から逃れようと必死だった。猛然と向かったのは、立ちはだかった欧陽坎おうようかんの許だった。

「危ない――‼」

 欧陽坎は、ひるむことなく踏み出すと、馳せ違い様に握った短刀で一閃を放った。

 首から血飛沫ちしぶきを上げた鹿が、欧陽坎の後方にどうっとくずおれた。

「だ、大丈夫なのか、欧陽坎……?」

 欧陽坎の身を案じた仲間たちが駈け寄った。

「どうってことねえよ」

 欧陽坎は、鼻をこすりながら得意げに返した。手許を見遣みやると、短刀の切っ先が折れていた。

 その日は、棒にぶら下げた鹿を皆で欧陽坎の家まで持ち運んだ。

 欧陽坎の父は、すぐに鹿を下処理すると、肉をさばいて店頭に並べた。

 欧陽坎が鹿を仕留めたという話は、仲間たちを通じてたちま邑中むらじゅうに広まり、店には鹿肉を買い求める邑人が幾人も往来した。

 父は、相変わらず不愛想に接客した。

 肉を売った銭は、ほとんどが父親の酒代に消えた。だが、欧陽坎は、何だか誇らしかった。

じい……」

「何じゃ?」

 欧陽坎は、店の裏で豚の血抜きをしている祖父を見付けて尋ねた。

「短刀が折れちまった。何かほかに獲物を仕留める道具はねえか?」

「鹿を仕留めたときに折れたか? 短刀じゃあ、でかい獲物を狩るにも限界があるじゃろ。向こうの納屋なやに使い古しの剣があったはずじゃ。それを持ってけ」

「剣なんてあったか?」

 作業を止めた祖父は、欧陽坎を見遣ると不気味に笑った。足許には、胴から首が離れた豚がおびただしい血を流している。

「昔、店の前で行き倒れたやからから盗っておいたものじゃ。迷惑料としてな」

「じゃあ、それもらうぜ、爺」

 欧陽坎が納屋に足を向けたときだった。

「狩りに熱を入れるのも良いが、何事も好調なうちに手を引いた方が賢明じゃぞ。後々痛い眼を見なくて済む」

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