腕白と祖父
祁盈…………周王朝の血筋を汲む晋国の重臣。
楊食我…………周王朝の血筋を汲む晋国の重臣。
欧陽坎…………矛の手練者。妖しの短狐を僕に持つ。
藺離…………槍の手練者。妖しの火鼠を僕に持つ。萬軍八極のひとり。
爺…………欧陽坎の祖父。
その鹿は、降り掛かる災厄から逃れようと必死だった。猛然と向かったのは、立ちはだかった欧陽坎の許だった。
「危ない――‼」
欧陽坎は、怯むことなく踏み出すと、馳せ違い様に握った短刀で一閃を放った。
首から血飛沫を上げた鹿が、欧陽坎の後方に摚っと頽れた。
「だ、大丈夫なのか、欧陽坎……?」
欧陽坎の身を案じた仲間たちが駈け寄った。
「どうってことねえよ」
欧陽坎は、鼻を擦りながら得意げに返した。手許を見遣ると、短刀の切っ先が折れていた。
その日は、棒にぶら下げた鹿を皆で欧陽坎の家まで持ち運んだ。
欧陽坎の父は、すぐに鹿を下処理すると、肉を捌いて店頭に並べた。
欧陽坎が鹿を仕留めたという話は、仲間たちを通じて忽ち邑中に広まり、店には鹿肉を買い求める邑人が幾人も往来した。
父は、相変わらず不愛想に接客した。
肉を売った銭は、殆どが父親の酒代に消えた。だが、欧陽坎は、何だか誇らしかった。
「爺……」
「何じゃ?」
欧陽坎は、店の裏で豚の血抜きをしている祖父を見付けて尋ねた。
「短刀が折れちまった。何かほかに獲物を仕留める道具はねえか?」
「鹿を仕留めたときに折れたか? 短刀じゃあ、でかい獲物を狩るにも限界があるじゃろ。向こうの納屋に使い古しの剣があったはずじゃ。それを持ってけ」
「剣なんてあったか?」
作業を止めた祖父は、欧陽坎を見遣ると不気味に笑った。足許には、胴から首が離れた豚が夥しい血を流している。
「昔、店の前で行き倒れた輩から盗っておいたものじゃ。迷惑料としてな」
「じゃあ、それ貰うぜ、爺」
欧陽坎が納屋に足を向けたときだった。
「狩りに熱を入れるのも良いが、何事も好調なうちに手を引いた方が賢明じゃぞ。後々痛い眼を見なくて済む」




