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報仇の剣 -萬軍八極編-  作者: 熊谷 柿
第4章 忠星
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遭遇の長髯

登場人物

祁盈きえい…………周王朝の血筋をしん国の重臣。

楊食我ようしょくが…………周王朝の血筋を汲む晋国の重臣。

欧陽坎おうようかん…………矛の手練者てだれ

 見れば、身の丈は八尺を超え、頭には黒幘こくさくを被り、虎のようなひげを蓄えていた。腕組みした胸板は厚く、黒のじゅに白のまとっている。その黒襦の上からは、胸背を保護するような胴巻きを備えていた。

 柄は紺色だった。先端を穂鞘ほざやに包んだほこの柄を小脇に挟んでいたが、奇妙なことに、腰には大小幾つもの瓢箪ひょうたんをぶら下げている。

 この者こそ、祁盈きえいが放った刺客、矛使いの欧陽坎おうようかんだった。

 奇妙な出で立ちに、往き交う人々の視線が欧陽坎へ注がれていた。

 欧陽坎は、その視線に、くわっと環眼かんがんを引きき威圧した。

 人々はどれも眼を背け、災難が降り掛からぬよう祈りながら、そそくさと素通りするような塩梅あんばいだった。

 雨の日も風の日も、欧陽坎は幾日も同じ行動を繰り返した。誰人だれかを待つようでもあり、探しているようでもあった。

「白い頭巾ずきんに、へそまで届きそうな長髯ちょうぜんを蓄えている。この男を始末するのだ」

 特徴は、祁盈に仕える近侍きんじのひとりに教えられていた。この男を抹殺するのが、欧陽坎に与えられた使命だった。腕前を買われ、百人ほどいる祁盈の食客の中から、白羽の矢が立っていた。

「お安い御用だ」

 ひょんなことから祁盈の食客となった。食い扶持ぶちには困らないが、退屈さに嫌気が差していたところだった。欧陽坎は、勇んだ。

 その男がよく通ると聞いたよくの郊外に足を運び、張り込んでみたものの、幾日経っても現れる様子がない。早くも先方が察知し、身を隠したのではないかと疑い始めた頃だった。

「――――⁉」

 欧陽坎の環眼が、大きく引き剝かれた。

 年齢と上背も欧陽坎と差ほど違わぬように見えた。白い頭巾と道袍どうほうまとい、道袍の上から胸背を保護するような胴巻きを備えている。見事に伸びた長髯ちょうぜんは、臍まで達するほどだった。刃が穂鞘ほざやに包まれた朱色の長柄を、肩に掛けるようにして闊歩かっぽしている。

 欧陽坎のからだは、勝手に動いた。身を預けた木立から勢い良く背を離すと、長髯の男に向かって脇目も振らず堂々と歩み寄った。

 往来する人々は歩みを止め、欧陽坎に好奇の眼を向けた。

 そのような中でも、欧陽坎の視線は、長髯の男だけに注がれていた。

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