烈火の斬撃
登場人物
藺石…………藺家の当主。槍の達人。八人の子息を持つ。
藺授…………藺家の長子。苛烈な槍の名手。
藺離…………藺家の次子。槍の手練者。道徳的な思想を持つ。
藺翼…………藺家の三男。豪快な槍術の持ち主。
藺冑…………藺家の四男。鋭敏な槍術の持ち主。
火鼠…………炎を自在に操る妖し。
圧倒的な藺授の槍術に、藺離は防戦一方に見えた。
「…………」
高台から腕組みした藺石が、眼を細めて観戦している。
「これが、授兄の本域か……。あの離兄が手を出せないでいる……」
拳には力が入る。固唾を飲んだ藺翼が、試合から眼を逸らすことなく隣の藺冑に呟いた。
「くっ! 離兄……」
試合に眼を向けたままの藺冑の顔が、苦悶の表情に歪んだ。
静かだった。試合の成り行きを見守る門弟たちは、どれも黙って見届けている。声援はなかった。
「――――⁉」
藺授の鋭い一閃が藺離の頬を掠めた。
その一閃に怯むどころか、降り注ぐ斬風を凌ぐ度に藺離の眼光は冴えた。命の危機を感じ取る躰が、燻る力を開放したようだった。
藺授が一歩下がった。
その間隙を突き、追い払うように藺離は槍を斬り上げた。
すると――。
その斬撃には炎が渦巻き、焔が迸った。
「――――⁉」
眼を剥いた藺授は、身構えたまま動きが止まった。
蝟集した門弟たちも挙って息を飲んだ。
「そうだ」
不敵な笑みを浮かべたのは、高台から試合を眺める藺石だった。
炎の斬撃を放った本人、藺離でさえ動きが止まり、驚愕の表情を浮かべている。眼を泳がせると、何かを悟った。
「あ、あれは、父上と同じ……炎を纏う斬撃……」
「離兄が……」
藺翼と藺冑は、唯、唖然とした。
怒気を放ち、忽ち悪鬼の形相に変わったのは、藺授だった。雄叫びを上げると、斬り込んだ。放ったのは、憤怒の袈裟斬りだった。
爽やかな微笑が浮いていた。藺離は、迫る藺授へ躰を向け仁王立った。




