火炎の試練
登場人物
藺石…………藺家の当主。槍の達人。八人の子息を持つ。
藺授…………藺家の長子。苛烈な槍の名手。
藺離…………藺家の次子。槍の手練者。道徳的な思想を持つ。
藺翼…………藺家の三男。豪快な槍術の持ち主。
藺冑…………藺家の四男。鋭敏な槍術の持ち主。
火鼠…………炎を自在に操る妖し。
「くっ!」
咄嗟に藺離は、父の槍で玉炮を斬り上げた。二つに割れた玉炮は、藺離の身を避けるようにその後方まで飛び、地に着くと爆ぜた。
続け様に火炎の放射が藺離を襲う。それを躱しても、また別のところから火炎が藺離の身を焦がした。まるで、火鼠が何体もいるようだった。否、火鼠の素早い動きが、藺離には何体もいるように見えていた。
火鼠は、矢継ぎ早に口から火炎を放ち、徐々に藺離との距離を詰めた。突如、火鼠が宙に跳ねた。足の間から勢い良く炎の尾で藺離を仰いだ。
身を焼くほどの熱風が、藺離を後方に弾き飛ばした。間髪入れず、上空から五つの玉炮が、一挙に藺離へ降り注ぐ。
「さあ、どうする……?」
暗闇で絶え間なく点滅するような炎の明かりに、藺石は独語した。
藺離は、斬撃を頭上へ五つ走らせた。苦し紛れのそれに見えた。しかし、炎に照らされた藺離の双眸は冴えていた。
閃光のような斬撃は玉炮を斬り、割れた玉炮が地に落ちて爆ぜた。
熱い爆風が、縁側に立つ藺石の頬を打つ。
勝ち誇ったような火鼠は、二足で立つと爆ぜる炎に視線を注いでいた。
すたっと、火鼠の後方に何かが着地したようだった。
「――――⁉」
慌てたような火鼠が振り返った刹那だった。
小さな火鼠の躰を穿ったのは、年季の入った槍だった。
「火を操る妖しよ、我が僕となれ――」
火鼠に冷たい視線を注ぎながら云ったのは、藺離だった。
藺離は、五つの玉炮を斬ると同時に跳躍した。地に落ちた玉炮、その爆風の威力を借りるようにして、更に天高く跳躍していた。小さな炎が揺れている。暗闇でもそれとわかる火鼠の炎尾だった。宙で火鼠の位置を捉えた藺離は、その背後に着地していた。
すうっと、火鼠の姿が消えると、辺りは全てが暗闇に覆われた。
「見事」
藺石の声が聞こえた。
「その槍と火鼠はお前にくれてやる。当主の座に就くかどうかは、お前が決めろ、藺離」




