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報仇の剣 -萬軍八極編-  作者: 熊谷 柿
第3章 義星
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当主の慧眼

藺石りんせき…………藺家の当主。槍の達人。八人の子息を持つ。

藺授りんじゅ…………藺家の長子。苛烈な槍の名手。

藺離りんり…………藺家の次子。槍の手練者てだれ。道徳的な思想を持つ。

藺翼りんよく…………藺家の三男。豪快な槍術の持ち主。

藺冑りんちゅう…………藺家の四男。鋭敏な槍術の持ち主。

「ああ。離兄りにいが当主なら、俺たちもやる気が出るってもんよ」

「難しいことを云うな。私は、授兄じゅにいほど強くない」

「……思いついたぞ! 離兄の傷が治ったら、皆で離兄を鍛えてやることにしよう!」

「そりゃあいい!」

 肩を寄せ合った三人は笑い合うと、歩調を合わせてやしきの中に姿を消した。


 その夜のことだった。

 かがりが焚かれた部屋には、ひとりの壮年が胡座こざしていた。腕組みのまま背筋を伸ばし、瞑目めいもくしている。柄は朱色だった。壮年の右側の床には、一本の年季の入った槍が置かれていた。それは、藺家当主の藺石りんせきだった。藺石は、耳を澄まして招いた者の来訪を待っていた。

 一度、篝の炎が揺れた。

「父上、お呼びでしょうか」

 下座にある扉の奥から声がした。緊張はない。そうかと云って、浮かれている様子もない。いつも通りの声音こわねだった。

「入れ」

 瞑目したままの藺石は、その声の主を招き入れた。

 姿を現したのは、次男の藺離りんりだった。襦褲じゅこまとった藺離は、父の藺石から距離を取って対面へ静かに端座した。

 藺離の着座を察した藺石は、静かに眼を開いた。

したたかに打たれたな」

「…………」

何故なにゆえに全力を出さん?」

「…………?」

 藺離は、怪訝けげんの色を浮かせると、とぼけてみせた。

「昼間の乱戦のことだ。今日だけではあるまい。お前はいつも本気で挑んでおらん。特に授には、えて勝ちを譲っている」

「そのようなことはございませぬ。授兄に敗北を喫するのは、我が武技の至らなさゆえ

 微笑を湛えた藺離は、申し訳なさそうに返した。

 その時だった。

 藺石の背からい上がるようにして右肩に姿を現したのは、奇妙な生き物だった。姿は栗鼠リスのようにも見えるが、深紅の身に黄のたてがみを備え、左右には黒々とした大きな眼がある。どういう訳か、尾があるはずのところには、紅蓮ぐれんの炎が燃えていた。

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